受け入れ側に残る高いハードル

しかし、すべての自治体が高齢者の移住に賛同しているわけではない。送り出す側になる首都圏の首長からは「無理に高齢者を地方へ移住させるのには違和感がある」(黒岩祐治神奈川県知事)、「施設が足りないから移住というのは乱暴」(舛添要一東京都知事)など疑問の声が上がった。

受け入れ側にも「平成の姥捨て山」、「数合わせの押しつけ」などと反発する声が根強く残る。高齢者介護や医療の負担だけを押しつけられたのでは、地方の衰退を加速することになりかねないからだ。「過疎が進む地域に高齢者は不要」、「小規模自治体は単独で取り組めない」などの声も聞かれる。

健康で移住する人は何らかの就労の場を求めるだろう。どうやって雇用の場を確保するのか。移住した高齢者が集まって住む拠点を作ったところで、地域から孤立してしまったのでは意味がない。住み慣れたわが家を離れても良いと思えるだけの魅力を提示し、地域を挙げて受け入れることができるのか。政府と自治体が乗り越えなければならないハードルは高いままだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。