震度7の激しい揺れを2度にわたって観測した熊本地震。2016年4月14日の前震発生から、既に2ヶ月が経った。頻発する余震も次第に収束を迎えつつある中、やはり気にせざるを得ないのが震災被害の経済的な影響だろう。5月12日に内閣府から公表された4月時点の景気ウォッチャー調査の結果を見ても、熊本地震が景況感の下押し要因となっていることがわかる。
「景気ウォッチャー調査」とは
景気ウォッチャー調査は2000年1月から毎月1回実施されており、その結果を内閣府が公表している。タクシー運転手やコンビニの店長など、地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々の協力を得て、地域ごとの景気動向を的確かつ迅速に把握し、景気動向判断の基礎資料とすることが調査の目的だ。
毎月25日から月末までを調査期間とし、当月時点の景気の現状および先行きについての判断とその理由について、北海道から沖縄まで11の地域ごとに結果が集計されている。判断結果はDiffusion Index、略してDIと呼ばれる指数で表されている。これは5段階に分けた判断について、各判断の構成比にそれぞれ「良くなっている」なら1、「やや良くなっている」なら0.75という具合に、1から0まで0.25刻みの点数を乗じて算出しているものだ。
九州は東日本大震災時に迫る落ち込み
2016年4月の景気ウォッチャー調査によれば、景気の現状判断DIは43.5で、41.5だった2014年11月以来の低水準となった。これは円高・株安に加え、熊本地震の影響が色濃く出たものと思われる。
現に九州は34.2で前月比▲13.4ポイントと、東日本大震災が発生した2011年3月の前月比▲16.6ポイントに迫る落ち込みとなった。ちなみにこの時点で最も大きく前月を下回った東北では、▲32.1ポイントの16.8という数字を記録している。
先行き判断DIは3ヵ月連続で悪化
景気の先行き判断DIは前月比▲1.2ポイントの45.5で、3ヵ月連続で悪化した。中でも九州が最も低く、前月比▲6.9ポイントの41.3で、ここでも震災の影響が大きいことが分かる。
先行き判断DIのうち家計動向関連は前月比▲1.1ポイントの45.3で、特に飲食関連が前月比▲6.5ポイントの40.6となっているのが目立つ。判断理由のコメントを見ても、「先行きの不安感に加えて、熊本地震による自粛ムードが高まっていることから、今後についてはやや悪くなる」 (北海道 高級レストラン スタッフ) や、「熊本地震の影響があり、旅行は少し自粛したいという傾向がみられる (後略) 」 (南関東 旅行代理店 経営者) など、自粛ムードの広がりや消費マインドの冷え込みを懸念するコメントが見てとれる。
また、同じく前月比▲1.1ポイントの45.3だった企業動向関連についても、「熊本地震によるサプライチェーンの寸断などで、平常の売上はしばらく確保できない」 (北陸 プラスチック製品製造業 企画担当) といった、先行きに対して悲観的なコメントが見られた。
これまで比較的高水準を維持していた雇用関連も、前月比▲2.1ポイントの47.8となり、横ばいを意味する50を3カ月連続で下回る結果となった。ここでも「熊本地震の影響が減産から人材へも徐々に出始めている」 (中国 人材派遣会社 経営企画担当) など、震災が雇用環境に与える影響を懸念する声もある。
九州では風評被害も
公益財団法人の九州経済調査協会が5月19日に発表したレポートによると、熊本地震による九州経済に対する短期的な影響は、「①製造業・農林水産業に関連する資本ストック等の損壊による生産活動の停滞」や「②製造業のサプライチェーン寸断に伴う熊本県を除く九州地域の生産活動の停滞」、「③消費マインド低下等に伴う消費活動の停滞」、「④九州域外からの宿泊客減少に伴う観光消費の低迷」、さらには「⑤被災地域における復旧・復興需要による九州経済への影響」といった5点に集約されるという。
レポートはこれら①~⑤の影響のうち、現段階で定量化が可能な①~④の影響について試算しているが、特に目を引くのが③と④だ。前者の「③消費マインド低下等に伴う消費活動の停滞」の影響にかかる試算値は▲1,900億円~▲2,300億円、後者の「④九州域外からの宿泊客減少に伴う観光消費の低迷」は▲360億円で、全体の合計値である▲2,610億円~▲3,690億円の中で大きな位置を占めている。言うまでもなくこれら両者の要因には、いわゆる「風評被害」が少なからず影響しているものと考えられる。
復興に向けて 過去の教訓を活かしたい
今回の震災では、例えば情報の伝達手段にSNSが有効活用されるなど、過去に発生した震災から得られた教訓のいくつかが活かされているように思われる。例えば被害が比較的少なくて済んだ大分県別府市では、市長がFacebookで流す正確な情報が、地元民の安心感につながったとの報道もみられた。
また、東京にある熊本県のアンテナショップ「銀座熊本館」に多くの客が訪れるなど、被災地への貢献手段の一つとして地元産商品の購入等に注目が集まった。熊本県東京事務所によれば、地震発生後の売上は2?3倍に上昇したとのことだ。また、芸能人を含む多くのボランティア活動が報道されるなど、自粛ムードでは想像もできないような前向きな姿勢が諸所に見られる。
現地への配慮からの自粛を否定するわけではないが、ここは「訪れることも復興の支えになる」といった積極的な気運にも目を向けたい。がんばろうニッポン !
(提供: 大和ネクスト銀行 )
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