米マイクロソフトの伝説的創業者ビル・ゲイツ氏や、「投資の神様」「オマハの賢人」と崇められる、米投資会社バークシャー・ハサウェイの最高経営責任者 (CEO) 、ウォーレン・バフェット氏などの富豪が、資産のかなり大きな割合を慈善事業に寄付して話題になっている。なぜ、彼らは与えるのか。その背景には、日本語で「社会貢献」と訳されるフィランソロピーの概念がある。
社会的課題の解決が目的
フィランソロピー (philanthropy) とは、個人や企業による社会貢献活動の総称を指す言葉で、ギリシャ語の愛 (フィリア) と人類 (アンソロポス) を組み合わせた造語だ。人を愛し、人のために活動する慈善慈愛のキリスト教精神の理想が文化的背景としてある。
現在のような「富豪が寄付や社会的投資を通じて社会的課題の解決を図る」という形が米国で確立されたのは、19世紀末の有力実業家アンドリュー・カーネギーや石油王ジョン・ロックフェラーなどが文化事業や教育分野に巨額を投じてフィランソロピーを実践したことが始まりだ。その精神は、貧困を減らすことを目的とした社会貢献助成組織「フォード財団」を設立した20世紀初期の自動車王、ヘンリー・フォードなどに受け継がれてゆく。
こうした慈善事業は富豪が遺言により、またはリタイアした後に行うことが、20世紀の常識であった。事実、日本円にして10兆円に近い、途方もない資産を持つバフェット氏は当初、遺言による死後の寄付をするつもりだった。だが、教育、貧困解消、感染症対策などの分野で活動するビル&メリンダ・ゲイツ財団を設立したゲイツ氏に説得され生前寄付を行うようになった。バフェット氏はその後も寄付を増やし、ゲイツ財団の事業に資産を捧げている。これは米国トップのフィランソロピー支出だ。
若くして成功し、若くして貢献を始める
ゲイツ氏には、フィランソロピーについて逸話がある。初期マイクロソフト時代に母親から「慈善事業を始めなさい」と諭され、「僕は今、会社経営で手一杯なんだ ! 」と抵抗していたというのだ。だが、1994年に39歳で財団を設立してからは、社会的責任を果たすことに重点を置くようになった。
近年の米富裕層はゲイツ氏のように、若くして成功し、若年でフィランソロピーを開始するのがトレンドになっている。さらに注目されるのは、慈善事業を有限会社方式で行うという、新しい手法だ。
22億人の月間ユーザー数を誇る米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは約610億ドルの資産を持つが、チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブと名付けられた慈善活動を目的に設立した有限責任会社 (LLC) に、累計16億ドルを投資している。寄付ではなく、移民問題や刑事司法改革、教育などザッカーバーグCEOの関心がある分野で利潤を生む投資をしている。
富裕層の寄付の大きな目的である税控除は受けられないが、慈善事業を「投資化」する新たなフィランソロピーの形だ。
解決すべき課題の設定が大切
フィランソロピーは、自己責任社会の米国でセーフティーネットの役割も果たしている。純資産が約1,500億ドル (約17兆7507億円) もありながら、寄付に回す金額が少ないとして米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOには寄付の圧力が強まっているようだ。
一方で、エネルギー・コングロマリットのコーク・インダストリーズを経営するチャールズ・コークCEOとデイビッド・コーク副社長の富豪兄弟は、政党への資金提供の隠れ蓑として教育や文化振興などの分野への寄付を利用しているとの批判もあり、政治色の濃い社会貢献は避けたほうが無難かもしれない。
日本では馴染みの薄いフィランソロピーだが、「解決すべき課題の設定」に工夫を凝らして、インパクトのある寄付や投資について考えてみてはいかがだろうか。(提供:大和ネクスト銀行)
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