その年に予定されている大きな制度変更や、西暦や和暦の転換点などにコンピュータープログラムのシステム上に発生する問題のことを「○○年の崖」と呼ぶ。このところ、しばしば耳にするようになったのが「2025年の崖」である。どうやらこの言葉の発信元は経済産業省のようだが、いったい何を意味しているのだろうか。

2025年までに大規模なシステム刷新が必要 ?

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(写真=Gorodenkoff / Shutterstock.com)

2018年9月7日、経済産業省は「デジタルトランスフォーメーション (DX) 」についてのレポートを公表した。DXとは、「IoTやクラウドなど新しいデジタル技術を活用して人々の生活をよりよい方向へと変化させ、競争上の優位性を確立する」ことを意味する。

例えば、シェアリングエコノミー。民泊や自転車・自動車のシェアライドなど、すでに日本の社会の一部にも浸透しつつあるが、「モノを所有する社会」から「必要な時にだけ利用する社会」へとシフトすることによって、産業構造自体が変容を遂げる可能性がある。それを支えるのがIoTなどのデジタル技術なのだ。

経済産業省のレポートは、DXを推進するうえで日本企業が解決すべき課題や、そのための対応策について言及したものだ。その中で特に注目したいのは、DX推進の目的を達成するために「2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要がある」と訴求していることである。国が民間企業の設備投資 (システム刷新) に関して具体的に注文をつけた格好だ。経済産業省は、多くの日本企業がいまだに旧態依然のシステムを踏襲しており、デジタル化においては日本が諸外国と比べて未熟であることを危惧しているのである。

大手企業の8割以上がシステムに負の遺産を抱える

場当たり的なマイナーアップデートやカスタマイズを繰り返したせいで、既存システムの中身がブラックボックス化してしまっている企業は少なくない。そうなると、初期に開発を手掛けたエンジニアでも現状のシステムを容易に把握できなくなる。これが実情なのである。こうして老朽化や肥大化、複雑化、ブラックボックス化が進んでしまった既存システムは、「レガシーシステム」と呼ばれる。

しかも、多くの企業では事業部門ごとにシステムが構築された結果、その開発を手掛けた業者が異なっているケースもあるという。全社的に大幅刷新を行わない限り、部門の壁を越えた横断的なデータ活用も不可能だ。DXにおいて求められているのは、まさにそういったデータ活用である。経済産業省のレポートによると、8割以上の大企業でレガシーシステムが残っているという。

ただでさえ人手不足が深刻化しているにもかかわらず、レガシーシステムの保守・運用のために大量のエンジニアが投入されている。貴重な人材の浪費につながっているというわけだ。

DX実現で「2030年に130兆円の経済効果」という試算

そうした「負の遺産」を解消し、大掛かりなシステム刷新に踏み切らなければ、DXの実現は難しい。そうなれば、日本は国際社会の中で取り残されてしまうだろう。そればかりか、2025年以降は年間にして最大12兆円 (現在の約3倍) もの経済損失が生じ続ける可能性がある。

実は、これこそが経済産業省が「2025年の崖」と呼んで危機感を募らせていることなのである。ここでいう経済損失とは、レガシーシステムの不具合によるトラブルやデータの消失、脆弱性を狙ったサイバー攻撃などがもたらすものだ。

一方で、もしシステム刷新を推し進めてDXを実現できれば、「2030年には日本の実質GDPが130兆円超も押上げられる」と経済産業省は試算している。この課題に正面から取り組むか否かで、日本経済の行く末が大きく変わりうるわけだ。

とはいえ、これはかなりの難題であることも確かだ。企業の間で2025年を目標にシステム刷新が活発化すれば、ソフトウェアやシステムベンダーには大きな特需が発生すると思われる。ところが、ベンダーの間では、その特需を歓迎するどころか、むしろ消極的な会社が少なくないという。なぜなら、新たな案件を確実に受注できるかどうかは定かでないし、システムの刷新によって既存システムのメンテナンス収入を失う可能性があるからだ。

そこで、経済産業省は2018年12月に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン (DX推進ガイドライン) 」を公開。システム刷新を進めるうえでの経営の在り方や体制、刷新のプロセスなどについて指針を示した。経済産業省の本気度がひしひしと伝わってくるが、今後はそれに対する企業側の姿勢が問われそうだ。(提供:大和ネクスト銀行

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