「ナッジ」 (nudge:そっと後押しする) という言葉を聞いたことはあるだろうか。ノーベル経済学賞で注目を集めた行動経済学で登場し、肘で軽く突くという意味を含むが、まだまだ馴染みがほとんどないという人が多いのではないだろうか。しかし、すでに生活の中で活用されており、気が付かないうちにナッジの概念に触れているのかもしれない。

経産省ではナッジユニットの部署まで誕生

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(写真=Fred Ho / Shutterstock.com)

行政の現場でも、ナッジを政策に取り入れる動きが進んでいる。経済産業省は政策の施策効果の向上を目指して、ナッジを活用するために「METIナッジユニット」を省内に設置し、エネルギーや中小企業施策の分野でナッジプロジェクトを推進している。では、実際に活用されているナッジとはどのようなものか、具体例を挙げる。

(1) エレベーターの混雑回避

特定の時間に利用者が集中するエレベーターでは、混雑緩和をどのように進めるかがカギとなる。階段での移動を推進するために、従来であれば、「階段を利用しましょう」という文言のポスターがエレベーターの前に張られていたものだ。ナッジを効かせた例は、近畿大学のキャンパスにみられる。階段へ誘導するために「3階までどう行きますか。階段48秒、エスカレーター56秒、エレベーター1分33秒」というポスターをエレベーター内に掲示。掲示後はエレベーターを利用する学生が減少したという。

(2) 放置自転車対策

駅前の放置自転車問題に悩まされていた大阪市がナッジを活用した例は、道路に小学生が描いた駐輪禁止の絵を路面に張り付けたところ、駐輪禁止の掲示ではなかなか改善しなかった放置自転車の数が減少するという結果が得られた。マナーを守らない大人への子供からの「忠告」が効果をもたらしたのである。

(3) 省エネ促進

地球温暖化の進行とともに、関心も高まる省エネ対策。一方、必ずしも全ての人が環境に対し高い意識を持っているというわけではない。大阪府は、LED照明への交換、冷蔵庫設定温度の調整、節水シャワーへの切り替えを促進するため、転居世帯にターゲットを絞り、啓発リーフレットを配布。生活様式を変えやすい時期をタイムリーにとらえるとともに、行動を起こさなければ損してしまうことを強調して、省エネを促進させることに成果を上げた。また、他の世帯の実践例も合わせて記載することで、周りの人の行動に影響を受けやすい環境を作り出し、省エネ行動を促している。

(4) 男性用便器にハエのマークでトイレのマナーが向上

男性は公共トイレを使用した際、便器にハエが描かれているのを目にしたことがある人もいるだろう。実はこれもナッジの例の1つである。利用者は無意識にハエを目掛けて用を足すため、清掃員の作業が減ったという結果が報告されている。これは、ハエの絵は「トイレをきれいに使ってください」とメッセージを送るより効果的であるということだ。

(5) 飲食店にある「店長のおすすめ」もナッジ

飲食店で、数あるメニューから何を注文してよいのか迷ってしまうお客も多い。スーパーでも同様に数ある類似商品から1つを選ぶのは至難である。そこで「店長のおすすめ」という文字が目に入ると、知らず知らずのうちにそのメニューや商品を選んでしまったことを経験したという人も多いだろう。これもまさに、店長のおすすめと顧客に対しナッジを効かせている例である。

無意識のうちに行動を誘導するナッジ、より一層の活用が期待

これらのように、ナッジは様々な意思決定のタイミングで影響を及ぼすことが実証されている。すでに周りが取り組みを進めていると社会規範を示したり、店長のおすすめという文言で選択肢を絞り込んだりすることで、行動が促されていく仕組みであり、ナッジを意識していなくても、無意識のうちに行動が誘導されている。ナッジの認知の拡がりとその効果の実証により、今後より一層その活用が広がっていきそうだ。(提供:大和ネクスト銀行


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