人はロボットではないため、行動の判断基準に心理学的要素が多分に影響する。その前提で研究が進められているのが、「行動経済学」という学問だ。

今回は、「損失回避バイアス」という行動経済学の理論を取り上げて、資産運用や日々の暮らしにどう応用できるかを考えていく。

損失回避バイアスとは

暮らしに活かす行動経済学 ! 損の悲しみが人を動かす「損失回避バイアス」
(画像=Vitalii Vodolazskyi / stock.adobe.com)

『損失回避バイアス』とは、「多くの人にとって『利得の喜び』と『損失の悲しみ』を比べると、後者のほうが大きく感じる」という人間の特徴のことだ。2002年のノーベル経済学賞受賞者で行動経済学の先駆者であるダニエル・カーネマンらによって提唱され、その研究によれば『損失の悲しみ』は『利得の喜び』の2倍以上とされている。

資産運用における損失回避バイアスの具体例

資産運用における損失回避バイアスの具体例には、どのようなものがあるのだろうか。損失回避バイアスの理論においては『利得の喜び』より『損失の悲しみ』のほうが大きいとされているので、投資家は「利益が出ること」よりも「損失が出ること」に敏感に反応することになる。つまり、

【1】含み益を抱えているときは「損失が出ることを避ける」ため、早めに利益確定の注文を出しやすい
【2】含み損を抱えているときは「損失を確定させたくない」ため、損切り注文をなかなか出せない

といった行動が挙げられるだろう。「コツコツ勝つけどドカンと負けてしまう (定期的に少額の利益は確保できるが、それらの利益を吹き飛ばすほどの大損をしてしまう) 」という人は、損失回避バイアスが顕著に表れているのだろう。

「相場はゆっくり上昇し、速いスピードで下落する」といわれている。この現象も、損失回避バイアスで説明することができる。相場が上昇すると、含み益を抱えた投資家に【1】の心理が働いて、利益確定の注文が出やすくなる。売り注文が増えるので、相場の上昇スピードは遅くなる。

相場が下落し始めたときは【2】の心理が働いて、なかなか損切りができない。そこに何かしらのネガティブなニュースが発生すると、多くの投資家が観念して損切りの注文を出すため売り注文が集中し、相場の下落スピードが加速するというわけだ。

「損切りのタイミングを逸して大きな損失を被ってしまった」という経験は、多くの投資家が持っているはずだ。なかなか損切りができない心理は、損失回避バイアスで考えれば「人間らしい現象」といえるだろう。

損失回避バイアスによって損切りタイミングを逸することを避けるためには、損をしたくないという気持ちをうまくコントロールするためのルールを作ることが重要だ。

「取得価格から10%下落したら例外なく損切りする」というような売買ルールを作るなど、機械的に取り引きしよう。

損失回避バイアスを日常生活で活用する方法

損失回避バイアスのロジックを理解すれば、資産運用以外の日常生活でも活用することができる。人は『利得の喜び』よりも『損失の悲しみ』のほうが大きく感じられるので、「ごほうびをもらいたい」という気持ちを利用するよりも「損をしたくない」という気持ちを利用するほうが、人を動かしやすいのだ。

例えば、あなたが「睡眠時間が仕事の効率に影響する」ことを伝えたいとしよう。どのような言い回しが有効だろうか。

損失回避バイアスの観点では、「睡眠時間を取ると仕事の効率が○%上がります」ではなく「睡眠時間を取らないと生産性が◯%も下がります」と伝えたほうが、相手に「刺さる」ことになる。

このように“やるメリット”ではなく“やらないデメリット”を訴求するという方法だ。
「これをすれば〇〇万円も得をする ! 」というよりも「これをしないと〇〇万円も損している ! 」といわれた方がこの損を早く解消しなければという心理になる。

また、「100点取ったらご褒美 ! 」ではなく「100点取れなければお小遣いなし ! 」の方が子供は必死に頑張るという理屈だ。

これは、商談時のセールストークや広告のキャッチコピー、チームメンバーへの指示など、あらゆる場面で活用できるテクニックだろう。

損失回避バイアスを理解し、その心理を逆手に取る

今回は「損失回避バイアス」という行動経済学の理論を取り上げて、資産運用や日々の暮らしへの応用を解説した。資産運用においても日常生活においても、意思決定の判断を下しているのは人間であり、人間には少なからず心理学的要素が影響している。

損失回避バイアス (人間の脳のメカニズム) を理解し、その心理を逆手に取ることで、資産運用においても日常生活においても、望む結果を得られる確率が上がるだろう。

(提供:大和ネクスト銀行


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