今秋、香港株式市場でIPOラッシュが起きそうだ。主役は米国既上場株の重複(セカンダリー)上場。昨年のアリババ集団(09988)のように、米国に次ぐ第2の上場先として香港を選ぶ企業が増えていくと思われる。

香港
(画像=PIXTA)

まずは9月10日に百勝中国(ヤム・チャイナ、YUMC)が上場予定だ。中国でKFC(ケンタッキーフライドチキン)やピザハットを展開する外食大手。中国人の日常生活に浸透しているファストフード企業なので、市場で人気が高まるかもしれない。

銘柄図表
(画像=東洋証券株式会社)

そのほかはまだ報道ベースだが、動画サイト大手のビリビリ(BILI)、旅行予約の携程旅行網(トリップドットコム、TCOM)、検索大手の百度(BIDU)などが上場予備軍として控えている。重複ではないが、京東集団(09618)系の京東健康(JDヘルス)テンセント(00700)系の微医(ウィードクター)などのスピンオフ上場も注目されそうだ。

表にはないが、もちろん重複でもスピンオフでもない“通常のIPO”も多い。9月8日には中国のボトルウォーター大手の農夫山泉(09633)が上場予定だ。このほか、アリババ系フィンテックのアント・グループ、話題の北京字節跳動科技(バイトダンス)京東数字科技集団(JD Digits)なども上場準備中。AIスタートアップの商湯科技(センスタイム)、日本風雑貨店の名創優品(MINISO)などの名前も挙がっている。

さて、なぜ重複上場を志向する企業が増えているのか。その背景には米中対立がある。米上院本会議は今年5月、米国に上場する外国企業に経営の透明性を求める法案を可決。外国政府の支配下にないことを証明するよう求め、米規制当局による会計監査状況の検査を義務付ける内容だ。検査を3年間拒否した場合は上場廃止となるため、中国企業の「締め出し」につながりかねないとの懸念が出ている。

これを避けるために“中国回帰”熱が高まってきた。また、香港の金融センターの地位を維持するため、中国政府がIPOを後押ししているという“裏テーマ”も感じられる。「アメリカの検査を堂々と受ければいいじゃない」などとヤボなことは言うまい。香港市場で大型IPOが増え、マーケットが賑わう。まずはシンプルに考えておこう。

奥山要一郎(おくやま・よういちろう)
東洋証券 上海駐在員事務所 所長
2007年入社。本社シニアストラテジスト等を経て、2015年より現職。
中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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