電力自由化,自治体,電力会社
(写真=HPより)

4月の電力小売完全自由化を前に、地方自治体が出資したいわゆる「ご当地電力」が全国各地に相次いで登場している。既に10を超す自治体が電力会社設立に参画し、検討を進める自治体も急増している。地元のメガソーラーなどから電力を調達し、エネルギーの地産地消と地域活性化を図るのが狙いだ。

しかし、新電力大手の日本ロジテック協同組合(東京)が3月末で電気小売り事業から撤退することが明らかになるなど、早くも競争激化の気配が見える。自治体がご当地電力を設立したからといって、バラ色の未来が待ち構えているわけではなさそうだ。

福岡県みやま市が4月から一般家庭用電力供給に参入

電力小売りの完全自由化と同時に、家庭向けの電力販売を始めるのが福岡県みやま市だ。市は筑邦銀行〈8398〉などとともに「みやまスマートエネルギー」を設立し、2015年4月から電力小売り事業に参入した。

現在は市内のメガソーラーから電力を調達し、市役所や学校など市内32カ所の公共施設、地元企業に電力を販売してきた。2月から家庭用電力の契約受付を始めており、3年後をめどに市内全世帯のざっと7割に当たる約1万世帯への販売を目指している。

契約容量60アンペア、年間使用量6472キロワット時のモデル世帯で九州電力の現行プランより年間4000円安くするなど、平均2%程度の格安価格が売りの1つ。水道料金とのセット割引や、電気料金の支払額に応じてポイントを与え、それを使って市内100店舗から買い物できるなどの特典も設けた。

さらに、市内に整備された家庭向けエネルギー管理システム(HEMS)を活用し、契約者にタブレットを配って住民向けのサービスも検討している。当面は電力使用量や室内の温度データを利用し、高齢者の見守り、健康チェックサービスを展開する考え。タブレットから病院やタクシーの予約もできるようにする。

市は電力販売で得た利益を農林業、観光業など地域産業に投資する方針。西原親市長は記者会見で「市内の高齢化は深刻。電気を軸にさまざまなサービスを提供し、地方創生に結びつけたい」と述べた。

公共施設に販売する自治体出資の新電力が続々

他のご当地電力は主に地元の公共施設向けに電力販売を進めながら、家庭向け電力供給も視野に入れている。鳥取県鳥取市は市内でガスを販売する鳥取ガスとともに、2015年8月に「とっとり市民電力」を設立した。

地域内で発電、小売り事業を拡大することにより、地域経済の振興、雇用の拡大を図るのが狙い。鳥取市経済・雇用戦略課は「当面は市が所有する施設に電力を販売することから始め、将来は民間企業や家庭にも広げていきたい」と意欲を見せる。

大阪府泉佐野市は民間の新電力と共同で2015年1月「泉佐野電力」を設立し、いち早く小売電気事業者の登録を済ませた。近隣のメガソーラーから電力を集め、公共施設34カ所への供給を進めている。泉佐野電力では「将来は一般家庭向けの電力供給も考える」としている。

全国の自治体で初めて電力会社を設立したのは群馬県中之条町だ。福島県の福島第一原子力発電所の事故を契機に、電力の地産地消を推進する方向を打ち出し、2013年8月に「中之条電力」を設立した。町内で運転しているメガソーラーから電力を買い取り、町役場や学校など公共施設に供給している。

静岡県浜松市は政令指定都市で初めて参入を決めた。全国でメガソーラーを展開しているNTTファシリティーズ(東京)、総合ファイナンス事業のNECキャピタルソリューション〈8793〉から出資を受け、2015年10月に「浜松新電力」を立ち上げた。市内のメガソーラーなどから電力を購入する予定で、浜松市エネルギー政策課は「4月から公共施設や民間企業に順次販売していく」と話している。

このほか、山梨県、山形県、神奈川県、岡山県真庭市、岩手県北上市、群馬県太田市、千葉県成田市、香取市などが参入を決めた。さらに、秋田県鹿角市、奈良県生駒市なども前向きに検討に入っている。

利益を確保して生き残る知恵と努力が必要

電力小売りの完全自由化で開放される市場は約8兆円といわれる。この巨大市場に対し、都市ガス、石油元売り、通信などさまざまな業種から約200社もの企業が参入してきた。各社ともお得感を前面に打ち出したことで、競争が激化する一方だ。

東京ガス〈9531〉は電気とガスをセットで購入すれば格安になるプランを提供。KDDI〈9433〉は毎月の電気使用量に合わせ、最大5%をキャッシュバックするセット割を始める。これに対し、東京電力〈9501〉など大手電力会社も黙っていない。東電は電気使用量が一定量を超すと割安になるプランを用意している。

サービス合戦は新電力参入が多い3大都市圏が中心だが、いずれ地方にも及ぶだろう。新電力販売量5位の日本ロジテックが資金繰りの悪化から撤退に追い込まれたように、自治体のご当地電力が必ず勝ち組に残る保証はない。

自治体の信用度は地方で抜群に高いが、これを過信して無理な電力販売を続け、赤字を出したのでは、あえて新電力に参入した意味がない。利益を確保して企業として生き残れるかどうかが最大の課題となる。

自治体出資の第3セクター会社が無理な事業で経営破綻に陥り、何度も問題になった。同じ失敗を繰り返さないよう事業の採算性を慎重に判断する必要がありそうだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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