急速な新興国の経済発展とともに強靭化している中国の経済パワー。そのパワーの原動力は、実業家の富裕層たちが展開する事業の拡大化が下支えしている。そんな賢くかつアグレッシブな事業展開が功を奏して、中国では年々100万ドル以上の投資可能資産を所有する富裕層が3000万ドル以上の投資可能資産を持つ超級富裕層に食い込んできている。

富裕層数の大幅な伸びを尺度に中国経済を見ると、国内経済が非常に潤っている感はある。しかし、2016年1月に発表した大和総研の予想によると、中国のGDPは昨年から横ばいの6.8%。中国が新興国の中で2桁台という顕著な成長率を示した1992年からの3年間と、2003年以降の4年間のようなGDPの伸びは見られない。

事業競争が激化する中、かつて富裕層が一代で築き上げた事業のように、ただ自社株を保有しているというだけで資産を増加させるという時代は過ぎ去った。先鋭的な事業戦略無くして今後の企業存続は難しいだろう。

中国の富裕層の核となる年齢層は40代後半から50代。これからは、父親もしくは母親が築きあげた城を2代目に承継させていくステージに入ってくる。事業を受け継ぐ富裕層の子息たちは、中国の経済成長率の鈍化および事業競争という風の中で、一族が築いた財産を守っていくことになる。

2代目のファミリービジネスへの参加は吉か凶か

中国でのビジネスではクアンシ(関係)と言われる人脈が大切だ。そして、自分たちが設立したビジネスに第三者を参入させるのを嫌う。このような中国のビジネス文化の影響で、国内の企業運営及び主要持ち株は創業一族が占めている。つまり、よそ者に企業を乗っ取られないように次世代の運営は子息や子女に承継されるが、この世代交代が吉とも凶ともなり得る。

中国の超級富裕層の2代目でファミリービジネスに参加したことが吉と出た例は、国内最大の飲料メーカー、ワハハ(娃哈哈)の創始者で現在70歳のゾン・チンホウ(宗慶後)氏だ。ゾン氏は国内メディアの胡潤百富によると約210億ドルの資産を有する国内第3位の超級富裕層。

1987年に杭州に創設されたワハハは現在ダノン傘下にあり、世界第5位飲料メーカーにまで発展。数年前より責任ある任務を徐々に父親より受け継ぎがされているのは、ゾン氏の娘でアメリカ国籍を取得したケリー・ゾン氏。現在33歳のケリー氏は2005年、アメリカのペッパーディーン大学を卒業後に同社に入社。

アメリカで8年間、西洋式の教育を受けたケリー氏と父親は中国でのビジネス運営方法では意見の相違があるものの、社会的に意義のあるフィランソロピー活動なども積極的に行いながら、徐々に責任ある役割を受け継いでいる。しかし、父親は、引退して娘に大企業を安心して任せるという気は無いとメディアに語っている。

さて、想定300億ドルの資産を有する中国一の超級富裕層でフォーブ誌の2016年3月現在で世界億万長者第18位の不動産王、ウォン・ジャンリン(王健林)氏には、ワハハのゾン氏の子女とは正反対のスキャンダラスな一人息子がいる。

現在27歳の王思聰氏は、すでにこのシリーズでも紹介したように一族の資産運用管理を行うシングル・ファミリーオフィス北京普思投資有限会社を任されているが、つねにメディアパパラッチに追い回されて、富二代(fuerdai)と言われる富豪たちの2代目の中では典型的な問題児として注目を浴びている。

アップル社のゴールド時計を前足にはめた飼い犬のKekeの写真をSNSサイトにアップし、脚は4本あるから4つの金時計を着けるべきだとコメントを付けたり、27歳の誕生日に韓国Kポップスターを招き豪華絢爛なパーティーを開くなど、それらを見たリーダーたちの怒りを買いメディアが炎上するまでになっている。

実際に、資産運用会社を経営し、プロの資産運用家の監視役を務めているが、金銭感覚に疎い富二代の代表的な人物は一族の資産を食いつぶしかねない。

会計監査ファームのPWCのファミリーオフィス担当者は、実業家の富裕者たちは後継問題に頭を悩ませているといい、財産は2代目から食いつぶされ3代目で家系が絶えると言われている。甘やかされて育てられた富二代が、ただ両親の経営する会社の持ち株を持っているだけでは資産が増えていく時代ではない。

事業戦略、グローバル展開、そしてカリスマ的なリーダーシップがない限り、今後の経済成長のスローダウン及びビジネス競争に勝ち残ってゆくことはできないだろう。(香港在住 ジャーナリスト)

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