およそ20年前、英国の経済誌「ザ・エコノミスト」に、ビル・エモット氏が、「サイバー経済のヒッチハイカーズガイド」という特集記事を執筆した。

現在に読み返しても、IT革命後の世界についての先見性には、今なお目を見張るものがある。パソコンやインターネットがまだまだ普及期にある当時の記事だということを踏まえれば、その洞察の鋭さには今なお驚かされる。

「ビジネス」の登山者へのガイドとは?

当時、ビル・エモットが「ヒッチハイカーズガイド」としたのは、欧州の高速道路などでよく見かける若いヒッチハイカーたちは内心大まかな行く先目指しつつも、その日その場の成り行き次第で他人任せの旅に身を委ねることを意識しているといわれている。

ちなみに、今回のタイトルはそのエモット氏の特集のオマージュというだけではなく、「ビジネスの登山」の途中で大きな方向性を見逃さないように、巨視的な見取り図をまずは示そうという狙いからだ。

ヒッチハイカーへの「ガイド」は一般向けの観光案内書とは似ても似つかない。ユースホステルなどの掲示板に日々貼り付けられる後続者へのアドバイス・メモのようなものだ。その地域で注意すべき道路事情、より目的に適った車を拾うためのノウハウなどが申し送りされる。

もちろん、「洞察力や独自の先見性という点でビル・エモットの向こうを張ろう」というわけであない。ただ、混迷を深める現代世界経済を「時代」という長期の視点から問い直そうというさまざまな賢者たちの議論を比較・整理して、今日の知的ヒッチハイカーたちへのガイド役の一端にはなれるだろう。

世界経済の混迷と「資本主義衰亡論」

昨年半ばごろから、見え始めた世界経済の翳りにさまざまな地政学的波乱要因の増大も加わって、株価、為替、油価などマーケット動向の変動幅も大きくなっている。

一方で、こうした経済の混迷は、「金融政策」を中心とする各国の政策的かじ取りの問題を超えているとの見方もある。「現代資本主義」システムに内在するもっと根底的な「病弊」の露出ではないかという議論も出てきている。

具体的に言えば、ピケティの「21世紀の資本」、ライシュの「格差と民主主義」、ヘルマンの「資本の世界史~資本主義はなぜ危機に陥ってばかりいるのか」、リフキンの「限界費用ゼロ社会」、サマーズの「先進国の長期停滞論」など枚挙にいとまがない。国内論壇でも同様な話題が溢れている。

「現代資本主義」に内在する構造問題として挙げる主要因に着目すると、相互に関連はあるものの(1)格差の拡大、(2)マネー経済の肥大化、(3)需要の先細り、(4)技術進歩自体がもたらす社会の変質という4種に大別できよう。

新しい『経済システム』を求めて

それぞれ「資本主義は自滅への道を歩む?」という疑問に対して、引き続き分析を加えていく。「格差」に関しては、「資産の総収益率が所得の増加を上回り続ける結果、資産の集中は加速する」というピケティの分析とこれへのさまざまな評価・批判を吟味しよう。

「マネー経済の肥大化」で触れるのは、金融を通ずる世界経済の連結性の高まりと、その中で生じたバブルの生成・崩壊の繰り返しを問題視する主張だ。経済学の歴史に匹敵するほど昔から論争の的になってきた「需要の先細り」に関しては、このところ注目を浴びているサマーズ対バーナンキの論争を中心に議論を整理する。

さらに、「技術は資本主義を救う?」という疑問には追ってさらに深く分析する。「技術」を別扱いするのは、「需要の先細り」と異なり、楽観的ビジョンにつながる要素が多々含まれているからだ。

「第4次産業革命」論がその典型だが、ここでも、手放しで技術革新礼賛とは言えないことに注目したい。リフキンの言う「限界費用ゼロ社会」では、万物のインターネット(IoE/IoT)と呼ばれる社会の全般的ネットワーク化や人工知能の普及(スマート化)などが生産の効率と消費の効用を大きく高める。しかしその時、企業の形態や、雇用・分配を支配する組織の原理にはもはや「現代資本主義」とは様変わりした大変革が生じているのではないか。

さらに先には、「新しい『経済システム』の姿」では、現時点での問題意識に基づいて我々が将来的に目指すべき道や目標についての議論を整理してみたい。国内・国際・世代間など諸側面における格差是正の方策、フィンテク(FinTech)革命やクラウドファンディングを通ずる金融の「大衆化」、「所有からアクセスへ」という「価値主義」社会への移行などが含まれる。

これらのすべてを含む新しい技術経済パラダイムを「共有型経済」、「公益資本主義」などと呼ぶ向きもある。この新しいパラダイムをヴァーチャル(夢物語)からリアルに転換するための政治の役割についても触れるが、敢えて前もって以下の忘れ難いメッセージを引用しておこう。

「IT時代の政府の重要な役割は労働者や企業を変化から守るため、保護主義や補助金行政に訴えることではなく、人々に自ら変化に対処するためのツールを提供することである。」(岡本流萬)

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