金融規制の経緯:従来は、計算技術を磨く大銀行に有利だったが・・・

BISが決定した金融機関の資本比率の規制は、1993年に実施された。資本比率の計算式は以来一貫して「資本÷リスクアセット」とされているが、その計算手法は大きく変化している。

計算式の分母に当たるリスクアセットとは、各銀行のすべての資産を種類ごとに分け、それぞれのリスクに応じた掛け目を掛けて合計したものである。

例えば、100億円の貸出を行った場合、損失が発生するリスクが20%と低ければ20億円、120%と高ければ120億円が、分母に加算され、金融機関はこの額に応じた資本を積まなければならない。この例では、同じ金額を貸しても必要な資本は6倍違うことになる。

図表3の通り、規制導入当初は、BISが決めた同一の掛け目を世界中の銀行で用いてリスクアセットが計算されていた。その後2004年に、格付機関の格付を用いる「標準的手法」か、または、高度な手法を開発し、各銀行独自の信用格付けを用いることが容認された。

銀行独自の計算は、「内部格付手法」(IRB= Internal-Rating Based approach)と称される。高度化のインセンティブを付けるため、「内部格付手法」を取ると、リスク資産を削減できるように設計された。

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バーゼルⅡ導入を機に、主要国の銀行は計算技術を磨き、リスクアセットの圧縮に動いた。図表4は、銀行の総資産をリスクアセットで割った数値の推移である。この値が低ければ低いほど、会計上の資産に対してリスク量が低く計算されていることになる。

邦銀は、過去ほぼ一貫して低下しているのがわかる。この低下の一部は、現在信用リスクがゼロで計算されている国債が増えためである。しかしこの影響を除いていても、高度な「内部格付手法」の活用等で、リスクアセットは1~2割圧縮されたと思われる。なお、米銀は、そのような手法の高度化をあまり行わず、近年は、投融資リスクを取り始めたことから、リスク掛け目が上昇している。

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バーゼルⅢ導入後も、特に邦銀ではリスク手法高度化のメリットを享受してきた。しかし、高度化が進めば進むほど、複雑化し、銀行間の横比較がしにくくなってきた。このため数年前から、資本計算を「シンプルにするべき」という意見が出始めた。

そこで提案されたのが今回の変更案である。前掲図表3の通り、金融機関取引、大企業融資、プロジェクト・ファイナンスや事業用不動産融資、株式などについては、銀行の内部格付手法を認めず、格付機関の格付けに沿った掛け目を用いることとされた。過去10年余り容認されてきた「内部格付手法」を一部でも禁止したことは、大きな方向転換である。

(なお、今回の変更案以外にも、「標準的手法」自体の見直しも12月に発表されており、株式、住宅ローン等の掛け目が厳格化されている。)