影響度:株式、海外貸出、事業用不動産融資等に逆風

これらの変更案が採用された場合の影響度はどの程度になるか。一定の開示がある株式と金融機関向け与信だけを取っても、リスクアセットが8.5%増加する計算である(図表5)。

今の資本比率を維持するには、年間純利益の8割に当る2.4兆円の資本が追加で必要になる計算となる。但し、冒頭触れたように、その他の緩和点もあるため、これだけで、金融機関が財務的に苦しくなるわけではない。

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より注目すべき点は、銀行の資産運用方針への影響である。一部資産については、リスク掛け目が上がれば投資妙味が薄れ、運用方針の見直しが迫られるかもしれない。

このような資産として第一に注目されるのは株式運用である。マイナス金利下で有力な運用先と考えられる高配当株だが、リスク掛け目が、現在の約140%から250%へ、1.8倍に膨らんでしまうので、同じリスク・リターンを得るには、配当等の総リターンが1.8倍以上高い株式を探す必要がある。

第二に、大企業向け貸出へのマイナス影響が懸念される。例えば、銀行のメイン先大企業が赤字を計上したとする。現在は、ヒアリング等を経たメイン行が、融資を続ければ倒産はあり得ないと判断した場合、独自計算のリスク評価を据え置くこともできる。

しかし新規制の下では、大企業貸出のリスク掛け目は格付機関の格付けに基づいて決まる。外部格付では日本特有のメイン行の支援はそこまで考慮されない。このため、大企業の業績が悪化した際には、格付機関の格下げで、銀行が支援しにくくなるといったケースが発生しうる。

第三に、資源・エネルギー関連与信も問題がある。プロジェクト・ファイナンスのリスク掛け目が上昇することから、来期以降満期が増加した際に、再貸しがしにくくなる可能性がある。

更に、マイナス金利でインターバンク市場の収縮が懸念される中、規制が追い打ちをかける可能性がある。為替スワップ等についても、相手行のリスク算出が厳格化される見通しで、海外投融資に逆風である。特に邦銀の場合、前述の通り、格下げリスクがあるため、格付機関への依存を高める本案の影響を受けやすいと考えられる。

巨額の余剰資金はどこに流れやすいのか

このような環境下で消去法的に残る運用先は、現時点では超長期債が筆頭格であろう。しかし、これも、現在「自国の国債の信用リスクを 'ゼロ' に放置するべきか否か」という、金融規制最大の難問が話し合われている最中であり、中長期的には大きな不確実性を抱えている。

だとすると、金融機関が積極化しやすいと考えられるのは、例えば、高格付の国内社債、地方債、中小企業融資など、今回の規制上の取り扱いが比較的緩く、安定的な分野である。株式については、一定の投資は続くと思われるが、今回の規制が施行された場合、これまで以上に選別的にならざるを得ないだろう。

規制実施までには間があるので、ハイリスク市場への規制影響が表面化するまでには時間がかかると思われるが、中期的には、資金の集まりそうな債券関連商品への投資(公社債投信等)にも注目したい。

大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

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