鉱工業生産指数,追加緩和,アベノミクス
(写真=Thinkstock/Getty Images)

2月の鉱工業生産指数は前月比-6.2%とコンセンサス(-5.9%程度)を下回った。輸送機械工業で部品供給の問題による工場操業停止があったため、輸送機械の生産が前月比-10.2%と異常に弱かったの原因である。

その特殊要因を除いても、旧正月前の作りこみもあった1月の同+3.7%の上昇を打ち消す結果であり、引き続き横ばい圏内のトレンドが確認された。

鉱工業生産の判断は「一進一退」

経済産業省の予測指数は、輸送機械の生産再開の特殊要因もあり、3月が同+3.9%、4月が同+5.3%と堅調である。輸送機械の3・4月の予測指数は11.5%・9.4%となっている。3月が予測指数通りであると、1-3月期の生産は前期比‐0.8%% となり、10-12月期の同+0.5%に続き、横ばい圏内である。

経済産業省の鉱工業生産の判断は「一進一退」と不安定な形が維持されている。

2月の実質輸出は前月比+1.9%と堅調であったが、1・2月は1-3月期対比-0.8%となっており、生産の横ばい圏内のトレンドと整合的である。グローバルな景気・マーケットの不透明感は強く、日銀の輸出判断に振れがみられる。

昨年12月に日銀は輸出の判断を「横ばい圏内の動き」から「持ち直している」へ上方修正した。しかし、3月には「足元では持ち直しが一服している」と一転して下方修正している。この間、政府の輸出の判断は「弱含んでいる」のままであった。生産の判断は、政府・日銀ともに「横ばい」となっている。

海外経済の回復による輸出の持ち直しを前提とした日銀のシナリオは、政府のシナリオ対比では前のめりであったが、1月以降のグローバルなマーケットの不安定化で崩れた様子が見てとれる。

3月にはようやく政府の輸出の判断も「おおむね横ばい」へ上方修正された。3月に日銀は、景気判断を「緩やかな回復」から「基調としては緩やかな回復」へ下方修正した。先行き判断にも「当面、輸出・生産面に鈍さが残るとみられる」という表現が追加された。

しかし、1月の追加金融緩和は「リスクの健全化を未然に防ぐ」ことが目的でフォワードルッキングに行われたものであり、この下方修正への政策対応は済んでいると考えられる。

再度の追加金融緩和はあるのか

2016年に潜在成長率を十分に上回る成長率を維持することはアベノミクス成功のための必要条件であると考えられるが、リスクが高まって来ている。

ドル・円が企業の想定レート(118円程度)を下回ってきているからだ。既にリスク対応の追加金融緩和は行っているため、再度の追加金融緩和があるとすれば、景気判断から「回復」という表現が消える時だろう。

しかし、その場合、アベノミクスは失敗したとの評価が広がるリスクがある。日銀はできるだけ「回復」という表現を維持したいだろし、政府の前にそうすることもできないだろうから、追加金融緩和のハードルは高くなっていると考えられる。

政府・日銀ともに景気の先行きは、「緩やかな回復・拡大」の判断を維持している。この不安定な中で在庫はしっかり管理されてきており(在庫指数と在庫率指数ともに昨年2月と水準にほとんど違いはない)、生産が底割れするリスクは今のところそれほど大きくはないが、先行きの不透明感は払拭できていない。

新興国の景気減速やマーケットの不安定感に対する警戒感がまだ強く、企業心理を抑制し続ける可能性があることを考えると、輸出と生産がしっかり持ち直していることが確認できるまでには、まだ時間がかかると考えられる。

3月に日銀は、景気の先行きの判断に「当面、輸出・生産面に鈍さが残るとみられる」という表現を追加した。振り返ってみると、リーマンショック後の財政拡大の反動で、財政健全化の方向性で合意した2010年のG20が、グローバルな需要不足の原因となり、貿易活動を抑制してしまったと考えられる。

金融政策への過度な依存への反動で、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した2016年のG20が、各国の政策対応を経て、貿易活動の回復の転換点になるかどうか注目である。

消費税率再引き上げの決断は

3月には政府は景気判断を「このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」とし、これまでの「一部に弱さがみられる」から「一部に」を除き、5ヶ月ぶりに下方修正した。

政府は1月に3.5兆円の経済対策を既に決め、今後もその規模を上回る景気対策を策定する可能性が高くなり、国内要因で景気が崩れていくリスクは小さい。

中国を含む新興国向けを中心とした輸出環境がまだ不安定な状況は続くとみられるが、先進国経済が持ちこたえることにより、新興国経済も減速した状態から脱していくだろう。

政府・日銀が「回復」という表現を消す事態にはならないとみていることが、追加金融緩和の確率が30%程度であり、メインシナリオにしていない理由である。

2014年11月に景気回復の鈍化を理由に消費税率再引き上げ見送りの決断を安倍首相がした時には、9・10月と二ヶ月連続で政府の景気判断が下方修正されていた。しかも、その10月の景気判断は「このところ弱さが緩やかな回復基調が続いている」と今回と同じである。

今回は設備投資と輸出を上方修正する中で、消費と企業収益を下方修正し、全体として景気判断を「一部」ではなく全般とした弱さへ下方修正した。

生産統計では、資本財(除く輸送機械)と耐久消費税の出荷がまだ弱いことが確認されている。1・2月の10-12月対比では、資本財(除く輸送機械)が-1.2%と耐久消費税が-0.3%となっている。

企業収益の好調さに立脚し、消費の底堅さへの信頼が、これまでの景気回復シナリオを支えてきただけに、今回の景気判断の下方修正は、2017年4月の消費税率再引き上げが見送られる確率が30%程度あるという見方と整合的だ。

景気先行き不透明感が強い生産の結果は、政府・日銀の景気判断に下方圧力をかけることで、消費税率再引き上げの安倍首相の決断の高いハードルとなろう。

再引き上げを行うとしても、消費税収の増加を使い切るほどの大規模な景気対策とのカップリングとなろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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