大手金融のスタートアップを支援する動きが活発化している。特定の分野のベンチャー企業のコンテスト(「ピッチコンテスト」とも呼ばれる)を開催したり、実際の提携にまで発展したりするなど、さまざまな取り組みが出てきている。
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) <8316> もその一つで、同社は「未来2016」というピッチコンテスト実施。将来的な日本の成長を担うスタートアップ企業の支援を本格化させてきた。
SMFGのピッチコンテスト「未来2016」とは?
現在、4月18日の最終審査会を控えている同ピッチコンテストには、メディカル・ヘルスケア、フィンテック、ロボット・AI、クールジャパン、IoT・IoEといったテーマに沿ったベンチャーが集結。その中から、フィンテック企業を中心に調査する。
2016年2月1日、三井住友銀行と日本総合研究所は、国内のオープンイノベーションを推進するための異業種連携コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative(III)」を発足させたことを発表した。同コンソーシアムのメンバーには、日本電気(NEC) <6701> とトヨタ自動車 <7203> も名を連ねており、どのような成果を出せるのかについても注目が集まる。
同月12日、IIIは、ビジネスアイデアや技術シーズの事業化を支援するためのピッチコンテスト「未来2016」の2次審査を実施。18日の最終審査会に向けた準備が進んでいるのが現状だ。
注目フィンテックその1: ブロックチェーン開発のソラミツ
「ソラミツ」は、2016年、ブロックチェーン実証実験プロジェクトに実績を有するエンジニアや金融系実務経験者により共同創設されたスタートアップ。仮想通貨であるビットコインでも採用されているブロックチェーンを使って、顧客情報の管理などの効率化を目指す姿勢だ。
具体的には、金融機関では、新規口座開設時の顧客の身元確認、書類手続など、KYC(Know Your Customer)業務に膨大なコストと人員を費やしており、その効率化・自動化が共通課題となっている。
ソラミツはそこで、公開鍵暗号、電子署名、分散型台帳に代表されるブロックチェーン技術を活用し、必要な情報を、必要な企業が、必要なタイミングで共有できるシェアリングエコノミー型のサービスを提案。低コストでありながら高いセキュリティを実現したシステムによるサービスを開発、提供することを目標に掲げている。
同社は、2016年春より、B2B型KYCシェアリングエコノミーサービスの実証実験を開始する予定だ。将来的には、ブロックチェーン技術を金融以外の分野に横展開させることもにらんでいるという。
注目フィンテックその2: 給料担保型決済のドレミングアジア
もう一つフィンテック企業を紹介しよう。ドレミングアジアだ。2015年、貧困・格差を減らし平和で心豊かな社会を築く「ドレミング・プロジェクト」を目的として、福岡市で設立されたスタートアップで、買い物をする際に使える新たな決済プラットフォームの提供を目指している。
より詳細には、同社はクラウド型人事・勤怠・給与管理システムの「HRプラットフォーム」開発で培ったアプリケーション技術をベースに、決済サービス「Payming」の開発を推進している。
同プラットフォームは新興国市場を主ターゲットとして、銀行口座を持っていなくても働いた分の給与を担保に買物ができるという機能を持つという。毎日の給与計算をHRプラットフォーム上で行い、働いた分の給与を従業員のモバイル端末に通知し、その端末からの認証により店舗で買い物をした分の支払を企業の口座から行う仕組みだ。
また、ドレミングアジアは、将来的には、「Payming」の決済機能を通じて収集される購買情報を加工・分析して、製造業・生産者にマーケティングデータとして提供する構想も打ち出しており、今後の展開にも期待がかかる。
ちなみに、「Payming」は、2015年12月、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が九州産業界の有力企業と共に開催したベンチャーコンテスト「X-Tech Innovation 2015」で、決済部門の特別賞を受賞した。ほかにも、2016年3月には、総務省・国立研究開発法人情報通信研究機構主催の「NICT Entrepreneurs’ Challenge 2Days」では、「起業家万博」の総務大臣賞を受賞している。
その他の注目企業: ソーシャル創薬のゲーム化めざす「ソ創」
さて、SMFGのピッチコンテスト「未来2016」に登場している、フィンテック以外の注目企業も紹介しよう。一つ上げるとすれば「ソ創(そそう」)だ。同社は、2015年7月に東京工業大学主催の「第2回オープン創薬コンテスト」で新規化合物部門のグランプリを受賞した山本一樹氏が代表を務める異色のスタートアップだ。「未来2016」では、クールジャパン部門でピッチを行っている。
ソ創が提案する「ソーシャル創薬.moe」は、創薬標的タンパク質が薬を武器に疾患と戦う擬人化ゲームシステム上で、実際にIT創薬ソフトを組み込む形の創薬ゲーミフィケーション。それに、アイテム課金システムとアッセイ(薬の活性測定実験)を連動させながら、新薬発見のチャンスを広く一般に開放して「創薬を民主化」しようというものだ。
国産の創薬科学ソフトウェアとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)/バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)のIT創薬ソフトウェア「myPresto」や、東京大学の生体高分子ビューワー「CureMol」の二次利用許可を取得するなど、技術的には高く評価されている。
ソ創が、「未来2016」に参加するに当たって、医療関連研究開発企業が競合するメディカル・ヘルスケア部門ではなく、知財集約型企業が集まるクールジャパン部門を選択した背景には、事業化の実現に向けたビジネスモデル重視の企業戦略が垣間見える。
「未来2016」では、ソ創のように多様な分野のスタートアップが参画しており、フィンテックの枠を越えた異業種のマッチングの場になっている。総合金融グループとしてのSMFGが法人金融や個人金融で培った資源を、フィンテック企業や、その他の注目のスタートアップがどう生かしていくかもフォローしていく必要がありそうだ。( FinTech online編集部 )
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