施設での介護のバリエーション

いよいよ本論に入る。要介護者が入居することのできる介護施設には、どのようなものがあるのか。介護保険の適用方法や、介護サービスの提供などの違いにより、いくつかの種類に分かれている。

◆介護保険施設は3種類

介護保険制度上は、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、の3つのみが、施設介護サービスの対象とされている。これらは、介護保険施設と呼ばれている。

(1)介護老人福祉施設

特別養護老人ホーム(通称、「特養」)と呼ばれる。特養は、代表的な介護施設だ。50万人以上もの待機高齢者がいる。特徴は、頭金が不要で、月々の利用料も安いこと。ユニットケアと呼ばれるケアの方法が主流だ。そこでは、10人以下の入居者を、ユニットと呼ばれる1つのグループにして、ケアを行う。

台所・食堂・リビング等の共同生活ルームを取り囲むように、居室が配置された、ユニット型個室。居室が完全な個室ではなく、天井との間に隙間のある固定壁で仕切られた、準ユニット型個室がある。ユニットを設けない従来型の個室もある。また、複数の入居者で1つの居室を利用する多床室もある。

利用料は、個室の方が高い。原則として、新規の入居は、要介護3以上の人に限られる。

(2)介護老人保健施設

通称、「老健」と呼ばれる。老健は、特養と同様、頭金が不要で、利用料は安い。この施設は永住を前提としていない。介護を受けながらリハビリを行い、いずれは自宅に戻ることを前提としている。

通常、入居後は、3ヵ月ごとに入居を継続するか、それとも退去して自宅に戻るか、の判定を受ける。入居期間は長くても、1年未満となることが、一般的だ。

(3)介護療養型医療施設

通称、「療養病床」と呼ばれる。名前に、医療と付いているとおり、慢性疾患の療養を目的とする医療施設だ。利用料は、特養や老健よりも高い。長期的な医療コストや社会保障費の圧迫などの理由により、2020年には廃止される予定であり、施設の新設は行われていない。

◆介護保険施設以外で、終身に渡り入居できる代表的な介護施設は5種類

次に、上記の3つに加えて、利用されることの多い5つの介護施設を取りあげる。介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、ケアハウス、認知症高齢者グループホームだ。

「介護付き」という用語は、介護保険法が定める「特定施設入居者生活介護」というサービスが提供できる施設であると、都道府県の指定を受けた場合に、用いることができる(*5)。

(1)介護付き有料老人ホーム

介護付き有料老人ホームは、食事や入浴などの日常生活上の支援や、機能訓練などを提供するもので、要介護度に応じて、1回あたりの介護費用が定められている。

施設の介護スタッフが介護サービスを行うタイプ(一般型)と、施設が委託した外部の事業者が介護サービスを行うタイプ(外部サービス利用型)がある。通常、入居時に多額の頭金が必要な上に、月々の利用料も、特養に比べて高い。

(2)住宅型有料老人ホーム

住宅型有料老人ホームは、介護スタッフが常駐しておらず、介護サービスとして、地域の居宅介護サービス等を利用する。その場合、介護保険の自己負担分を賄うことが必要となる。なお、有料老人ホームには、これらの他に、要介護者の入居を前提としていない、健康型もある(*6)。

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(*5)指定のためには、看護職員や介護職員等の人員基準や、設備基準、運営基準を満たす必要がある。特定施設入居者生活介護を行うと、事業者は、1回あたり定額の介護報酬 (5,330円(要介護1)~7,980円(要介護5)(地域区分の人件費の上乗せがない場合)) を受け取る。
(*6)健康型有料老人ホームに、介護付き有料老人ホームが併設されていて、要介護状態になったら転居できるものもある。
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(3)サービス付き高齢者向け住宅

通称、「サ高住」と呼ばれる。サ高住は、2011年より新設されている施設だ。通常、入居時に頭金は不要なことが多いが、一般の賃貸住宅のように敷金等がかかる。月々の利用料は、特養より高いが、有料老人ホームよりは安い。

介護サービスは、地域の居宅介護サービス等を利用する。施設といっても、起床や食事時間が自由で、外出の制限がなく、来客の宿泊も可能であるなど、賃貸住宅の感覚に近い。そのため、入居ニーズが急騰しており、それに応える形で、新設ラッシュが続いている。

(4)ケアハウス

ケアハウスは、軽費老人ホームの類型の1つである。軽費老人ホームは、その名前のとおり、費用の安い老人ホームであり、実際に有料老人ホームより利用料は安いことが多い。

軽費老人ホームには、食事付きで所得制限のあるA型、食事なし(自炊)で所得制限のないB型、食事付きで所得制限のないケアハウス(C型)に分かれる。

A型とB型は、健康な人が対象。要介護状態の人は、ケアハウスに入居する(*7)。更に、ケアハウスは、自立型と介護型に分かれる。介護型ケアハウスでは、通常、施設の介護スタッフが介護サービスを行う。全室個室の上、利用料が安いため、近年、人気が高まっている。

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(5)認知症高齢者グループホーム

認知症高齢者グループホームは、その名のとおり、認知症の高齢者が共同生活を送る施設となっている。法令上、1ユニットの定員は5~9人と定められている(*8)。2ユニット構成の施設が多い。入居者は、家庭的な雰囲気の中で生活する。認知症の知識のある介護スタッフが常駐している。介護スタッフから、介護サービスや日常の世話を受けつつ、機能訓練を行い、認知症の緩和を図ることを目指す(*9)。

認知症高齢者グループホームは、「地域密着型」の介護サービスである。地域密着型とは、施設や事業所が、同じ市区町村に住んでいる人に限定して、介護サービスを行うことを意味する。

この他にも、経済的理由から自宅での生活が困難な高齢者が入居する「養護老人ホーム」や、公営住宅等の公共賃貸住宅をバリアフリー化した「シルバーハウジング」、比較的健康な高齢者が共同生活をする「グループリビング」など、多様な高齢者向け入居施設がある。

なお、実際の施設は、各類型の中で、様々な形で運営されている。入居費用も、施設によって異なる。例えば、介護付き有料老人ホームには、頭金がかからないものから、数千万円するものまである。このため、介護施設の選定の際は、施設見学や体験入居をするなど、十分な検討が必要と言える。

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(参考)主な介護施設の施設数、定員数
政府は、特養をはじめ、各種の介護施設の拡充を図っている。

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(*7)都市部の入居ニーズに応える「都市型ケアハウス」もある。定員20人以下で、住民票が、施設と同じ市区町村の人が対象。
(*8)「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年3月14日厚生労働省令第34号)第93条
(*9)認知症の症状の進行などにより、重度の要介護状態になると、共同生活が難しくなり、退去が必要となる場合もある。
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