地方自治体が抱えるさまざまな行政課題を首都圏の民間企業社員によそ者の視点から解決してもらおうという動きが、全国に広がってきた。
北海道美瑛町は既に、観光名所「青い池」のライトアップなどの提案を受け、町の施策に採り入れている。長野県塩尻市は高齢者の見守りができるアプリ提供と実証実験などの提案を受けた。
自治体の中にいると地域の魅力や課題を見過ごしてしまうことがしばしばある。よそ者の視点が地域の観光地を育て、街づくりのきっかけになった例は全国に数多い。美瑛町や塩尻市はよそ者とタイアップし、地域を変えようとしている。
ヤフー、アサヒビールの社員らが美瑛町長に提案
北海道上川地方にある美瑛町。人口1万人ほどの農業の町は、米アップル社のパソコン用壁紙になった「青い池」と、「パッチワークの丘」と呼ばれる美しい丘陵風景で一躍、有名観光地に仲間入りした。美瑛町の躍進に一役買ったのが、2014年から進める地域課題解決プロジェクトだ。
プロジェクトに参加しているのは、インターネット検索のヤフー <4689> をはじめ、アサヒビール <2502> 、日本郵便、情報サービスのインテリジェンスという東京都内に本社を置く大手企業ばかり。1年目は北海道札幌市の広告代理店電通北海道も加わった。
もともとはヤフーが社員の人材育成に向けた異業種交流研修に、町の廃校を借り受けようとして話を持ち込んできた。町がこれを地域振興に役立てようと全面協力してスタートした。
各社の社員と町職員らが5〜6人でチームを組み、現地調査で地域の課題を見つけたうえ、解決策を浜田哲町長に提案する仕組み。各社社員の参加は毎年30人ほど。現地を訪れる機会は限られるが、仕事の合い間に半年ほどかけて検討を進めている。
1年目の2014年は青い池の観光客が減る冬場の対策として、ライトアップが提案され、すぐに実行に移された。観光業者のパンフレットには「冬場のライトアップがおすすめ」などの文字が踊り、早くも効果が表れている。
2年目の2015年は高齢者の移動手段として福祉タクシーの運行が提案された。町は2016年度から試験的に福祉タクシーへの助成制度をスタートさせる方針だ。
町政策調整課は「企業には人材育成、町には課題解決というメリットがある。自治体職員と民間企業の社員、地元の人と首都圏の人では、ものの見方がずいぶん異なる。これからも斬新でユニークな提案を期待している」と喜んでいる。
塩尻市はソフトバンク、リクルートと提携
長野県中部にある塩尻市は人口約6万7000人、ワインで知られる山間の街だ。携帯電話のソフトバンク <9984> 、情報サービスのリクルート <6098> (ともに東京)と手を組み、1月から地方創生協働リーダーシッププログラムを始めた。
両社の社員14人が2月、2泊3日の日程で市内を訪れ、情報通信技術の基盤活用、子育て中の女性の復職支援、空き家対策など5つのテーマに分かれて現地調査。チームに加わった市職員らとも議論を重ねたうえで小口利幸市長に提言した。
提言発表会では、情報通信技術の基盤活用で高齢者の見守りサービスや病院でスムーズに会計できるシステムを盛り込んだアプリの提供を夏にも始めるという具体的な提案が登場した。スマートフォンを持たない人への端末提供、実証実験の展開も提案された。
新体育館の活用促進では、Jリーグの松本山雅FCと連携し、Jリーグチームが企画運営する体育館の提案があった。宿泊施設を併設し、24時間営業の眠らない体育館というユニークなコンセプトも登場した。市は今後、提案内容を担当部署で検討し、施策に反映させる。
第2回のプログラムは6月にスタートする計画。市はソフトバンク、リクルートのほか、もう1社の参加を呼び掛けている。
市企画課は「第1回は非常にユニークでありながら、現実的な提案が寄せられた。市の中にいたのでは気づかない発見もあり、次回の提案を楽しみにしている」と笑顔を見せた。
海士町、小布施町はよそ者が地域を活性化
街づくりを成功させるのは、よそ者だとよくいわれる。地元にいると見失いがちな地域の魅力をよそ者が発見し、町おこしの成功や地域経済の活性化につながった例は全国各地にある。
島根県隠岐諸島の海士町で干しナマコ、隠岐牛など島ブランドを次々に生み出したのは、島外からやってきた移住者たちだった。国の農業特区の兵庫県養父市では、広島県出身で元経営コンサルタントの三野昌二副市長が農業再生の指揮を執っている。
長野県小布施町は造り酒屋の再建や「小布施ッション」と呼ばれる文化サロンの開催、江戸時代の浮世絵師葛飾北斎に関係する国際イベントで名をはせたが、仕掛け人はセーラ・マリ・カミングスさんという米国人女性だ。地域の課題もそうしたよそ者を活用することで、これまで見過ごされてきた解決策を見つけられる可能性がある。
地方は今、人口減少と高齢化、地域経済の疲弊にあえいでいるが、特効薬ともいえる解決策はなかなか見つからない。よそ者の力に頼らざるを得ない現状は、自治体が追い込まれた苦境の深刻さをまざまざと見せつけている。
高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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