熊本大地震の被災地の様子が連日ニュースで報道され、SNSでも震災関連の投稿が絶えない。その多くは、被災地への支援の仕方やマスコミの報道姿勢についての批判的な指摘だが、SNS上で毎日震災関連の情報を目にすることに疲れている心情を吐露する人も多く見られる。
今回はこうした震災情報による気持ちの落ち込みから心を守る方法を3つ紹介する。
自分は被災してないのだから
「かわいそう」「辛いだろうな」「これ以上被害が出ませんように」……。
連日報道される被災地の現状を目にする度に、心の中でこうした言葉をつぶやきながら胸を痛める人は多い。この時、頭の中では無意識に被災者の心情を想像しているのだが、その基準となるのは「自分自身の過去の体験」だ。
今回の熊本と同じ震度7の地震は、この20年ほどで3度、大規模地震の基準とされる震度6弱以上では48回起きている。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、2021年)のほか新潟県中越地震(2004年)、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災、1995年)などは記憶に新しい。国民の大半は一度は大きな揺れを体験している。それだけに、リアリティーのある想像ができてしまう。
これには、「他人との境界があいまいになりやすい」という弊害がある。
学生時代を思い出して欲しい。友人の失恋話に自分を重ねて、共に泣き、一生懸命励ました思い出の1つや2つはあるはずだ。
このように他人の経験に感情移入し自分事のように感じることを指すのだが、これを今回の震災情報で行っていると、毎日心配や同情が絶えず、気が休まらない。だから心の負担は大きい。
こうした場合に大切なのは、曖昧になった境界を明確にすることだ。やり方は簡単。熊本大地震で自分に「実被害」が出ているかまず確認することだ。家屋の倒壊や避難所生活などの実被害がないのなら、それは結局のところ自分の事ではない。冷たく聞こえるかもしれないが、どれだけ辛さを想像してもそれは想像でしかないということを確認してやることが、「自分の心」のためになる。
その上で、想像で落ち込むのでなく、被災者の役に立つことを考えるべきだ。そのほうが自分にも被災者にも優しいはずだ。
ただ1点、フラッシュバックは別と考えて欲しい。被災者への同情ではなく、過去の強い心的ストレス体験が今回の震災で記憶に呼び起こされ、強い恐怖を感じているケースだ。この場合は医師やカウンセラーの助けを求め、自身の心のケアに専念すべきである。
不安への特効薬
連日の報道を見て胸を痛める人ばかりではない。中には、不安に駆られる人も多くいる。自分が被災する可能性やその際の被害を考えて怖くなるのだ。
これは普段からリスク回避のため、起こり得る展開を予測するタイプの人が陥りやすい。日常生活においては大変有益な考え方だが、地震のような天災には人の力は及ばないので、あまり意味を為さない。
このタイプの不安を抱えている人がすべきは、万一被災した際の備えだ。水や非常食・日用品の備蓄、つっぱり棒などでの家具の耐震強化、緊急時の避難場所の確認、地震や火災保険への加入などである。
避けるのではなく、最悪の事態が起きてもどうにか生きていけるよう準備をする。まさに備えあれば憂いなし。出来るだけの準備はしたという事実は、安心感と開き直りを与えてくれる。この2つこそ、不安に対する特効薬だと是非覚えて欲しい。
他人は変えられないのだから……
もう1つ、特にSNSでよく目にするのが、被災地への支援方法やマスコミの報道姿勢への不満である。ガソリンスタンドの列に割り込んだ取材班や、食糧不足の地域で弁当のツイートをしたアナウンサーをはじめ、様々な人の言動が批判に晒されている。
批判の多くは、被災者こそ最優先で守られるべきという考えの人々によるものだ。しかし、実際のところ、ほとんど状況の変化にはつながらない。
基本的に、人は誰しも自分が正しいと思っているものだ。批判する側もされる側も、どちらも悪意はない。ただ、正しいと判断する基準が違うだけである。
そのため、批判が相手の行動変容に繋がることは少ない。ましてSNS上で怒りをぶちまけたところで、相手には届かない。何も変わらず、かえって怒りが増すだけだ。
批判は社会への貢献意識の表れだが、表現方法としては不適切。そんな暇があるなら、他人の言動など気にせず、自分が正しいと思う支援を行ったほうがはるかに良い。
ボランティアに行く、救援物資やお金を送る、被災地のモノを食べる……行動することで役に立てている実感が得られる上に、怒りも溜まらないので一石二鳥である。
気持ちは自分次第
連日震災関連の情報が流れているが、それらが気持ちを落ち込ませているのではない。自分の考え方が原因なのだ。意識して落ち込まない考え方を取り入れ、日々健康な心を保っていただきたい。
藤田大介 DF心理相談所 代表心理カウンセラー
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