ドル・円のファンダメンタルズは、マーケットの力と実体経済の力に左右されることを説明してきた。マーケットの力は、金融政策の方向性を織り込む日米金利差と、現状の水準ができるだけ維持される慣性で構成される。
実体経済の力は、国際経常収支と海外直接投資によるマネーの出入り、そして国内のマネーが膨らむ力(円の供給力)であるネットの資金需要で構成される。
国際経済収支は縮小トレンドはすでに終了
日米金利差は国債2年金利の差、慣性はドル・円の12ヶ月ラグを使う。マネーの出入りは国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグ、ネットの国内資金需要は企業貯蓄率と財政収支の和(マイナスの方が強い)を使う。
ドル・円=72.6+11.21LN(米国2年金利-日本2年金利)-4.1(日本経常収支-ネット海外直接投資、年率、対GDP比%、12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグ)-2.36(ネットの国内資金需要、対GDP比%)+0.36(ドル・円、 12ヶ月ラグ)、R2= 0.87
この中で、リーマンショック後のドル・円の動きをかなりうまく説明できるのは、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグである。
国際経常収支の黒字額はリーマンショック後は大きかったが、その後の原油価格の高止まりと原発停止などによる燃料輸入の増加、そして外需対比で内需が堅調であったこともあり、2011年ごろから縮小トレンドに入った。
マネーの出入りが為替要因
原油価格の急落、そして海外からの旅行者が急増加する一方で、消費税率引き上げの影響が大きく内需が停滞気味であるため、国際経常収支の黒字額は2014年ごろから一転して拡大しつつある。
この間、海外への直接投資額はほぼ一貫して拡大してきたが、2014年ごろからは新興国の景気・マーケットの不透明感が増したこともあり、伸び悩んでいる。
結果として、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差(12ヶ月移動平均)は2010年ごろまで上昇(円高要因)、2011年ごろから2013年ごろまでは下落(円安要因)、そして2014年ごろからは再び上昇(円高)に転じている。
2009年4-6月期のGDP対比+0.1%が底で、2010年7-9月期の同+2.7%がピーク、そして2014年4-6月期が同-3.2%で底となっている。
国際経常収支と海外直接投資の差で為替を見る
ドル・円に即座に影響を及ぼす金利差に対して、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差は1-2年程度の時間をかけて緩やかにトレンドとしてドル・円に影響してくると考えられる。2010年以降のドル・円をみると、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグとほぼ同じ動きをしていることがわかる。
この間のドル・円とマネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグの相関係数は-0.93とかなり高い。
ドル・円の動きは日銀の大規模な金融緩和で説明されることが多い。しかし実際には、2013年ごろからの円安への転換は、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差が縮小に向かったこと、そして足元の円高は、その差が再び拡大へ向かったことで説明できる。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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