メガバンク3グループが発表した15年度決算はやはり厳しい内容だった。一般企業の売上高にあたる業務粗利益と本業のもうけを表す実質業務純益はいずれも前年から減少した。銀行を取り巻く環境は国内外ともに厳しく、2月半ばに導入されたマイナス金利の影響は今期に本格化する。

現在の収益環境は「四面楚歌」

前期の連結決算を3グループで合計すると、業務利益は前年比2%減の9.3兆円弱、実質業務利益は5.4%減で2.27兆円、最終利益は7%減少して約2.5兆円だった。

三菱UFJ銀行と三井住友FGはいずれも1000億円を上回る引当処理をした。三井住友は、多額の一時費用を計上したことで最終利益が14.2%減少。これにより、9年続いてきた「赤>緑>青」のコーポレートカラーの序列は「赤>青>緑」に塗り変わった。当面は厳しい収益環境が続くと見て、足場固めを優先させたのかも知れない。

このうち、みずほフィナンシャルグループは手数料などの非金利収入が増えたことや、持ち合い解消による株式売却益により、唯一10%近い最終増益となった。

ここ数年のメガバンクは、アベノミクスによる円安や債券価格の大幅上昇のおかげで潤ってきたが、現在の収益環境は「四面楚歌」と言ってもよいだろう。国内では企業・個人の資金需要が乏しい一方、日銀の国債買い取りで手元資金がだぶつき、銀行間の貸付競争はますます激しさを増している。国内の預金と貸付金の預貸利ザヤは3グループ平均で前年の1.09%から1.02%に縮小、つまり同じ金額を貸し付けても利益が減ることになる。

頼みの綱の海外も不振、市場環境の悪化が追い打ちをかける

これまで収益成長の頼みの綱だった海外事業も総じてマイナスに働いた。各グループとも国内市場の縮小を海外の拡大で補ってきたが、新興国の景気減速や需給失調に伴う資源価格の下落で厳しい局面を迎えている。さらに、ドルの調達コスト上昇や昨年後半以降の円高で海外子会社の利益が円ベースで目減りするなど為替面でもマイナス影響が出ている。

年初からの株価急落も影を落とす。グループ傘下の証券会社の業績が大きく落ち込んだほか、銀行が保有する株式でも多額の評価損が出ているからだ。3グループ合計の有価証券評価益は前年の9.3兆円から約2兆円も減少、このなかで金利低下の恩恵を受ける債券は5000億円強の増加にとどまっている。手数料収入の柱のひとつである投資信託など投資商品の販売も振るわない。

このような環境下、各グループは今期も厳しい見通しを示している。最終利益は合計2.15兆円で前期とほぼ同様の5.2%減る計画。三菱UFJとみずほが、いずれも11%近い減益になるのに対し、三井住友は8%強の増益を見込んでいる。前期の一時損失の影響が縮小、「緑」が2位に返り咲きそうだ。

今期はマイナス金利の影響が本格化

収益環境の面では、マイナス金利の影響が本格化する。各グループは預貸利ザヤ縮小の影響を200~400億円と見込んでいるが、早ければ6月と見込まれる日銀の追加緩和策でマイナス幅が拡大すれば利ザヤの下押し圧力は増す見通しだ。

為替、株式市場は大きな助けになりそうもない。米国は各国為替政策の「監視リスト」に日本を指定、11月の大統領選を前に日本の円売り介入を改めてけん制しているため、円安余地は限られそうだ。株式市場は追加金融緩和があれば一時的に上昇するかも知れないが、日銀の手詰まり状態が見透かされ長続きはしないだろう。日本の財政出動の規模や消費税増税の再延期に期待がかかるが、企業業績の鈍化が重くのしかかる。

海外事業の改善も期待薄。構造改善効果が一向に見えない中国は成長がさらに鈍化する恐れがあり、不良債権の積み上がりは懸念材料だ。中国経済がもたつけば周辺アジア諸国の回復もおぼつかず、米国の利上げペースが速まれば現地通貨に下押し圧力がかかる。

ATM利用料の実質引き上げもありうる?

このため各グループは手数料ビジネスに活路を求めている。三井住友は決算発表に先立ち、傘下の証券会社2社の統合と関連運用会社の三井住友アセットの子会社化を発表したが、これもその一環だろう。各行のATM利用料の実質引き上げなども覚悟しておいた方がよさそうだ。

マイナス金利導入で足元でも低迷が続く銀行株。株価純資産倍率(PBR)はいずれのグループも0.5倍前後と割安感が強まっている。しかし、投資家は日銀の次の追加緩和策の中身が見えないうちは動きにくいだろう。(シニアアナリスト 上杉光)

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