ある中小企業経営者がこんな話をしていた。
「クラウド会計ソフトはなんとなく抵抗があったが、使ってみるととても便利だった」
クラウド会計ソフトの先駆けであるfreeeの佐々木大輔社長は起業時のエピソードとして、「起業時には、地方の中小企業経営者はITリテラシーが低く、freeeは使えないサービスだと周囲から反対された」と『FinTech革命』(日経BP社)に記している。
銀行の「聖域」に風穴をあけるクラウド会計
FinTechを特集した『週刊ダイヤモンド2016年3月12日号』では、クラウド会計ソフトによってFinTechの日本訳といえる「金融×IT」が特集されている。
これまで四半期決算時など定期的に顧客の財務状況を確認していた金融機関が、細かい期間でも、企業の会計状況や、それをもとにした経営者の判断や考えを確認することができるようになった。
クラウド会計が銀行の聖域に風穴を開け始めているといわれる。銀行は人海戦術の「営業力」によって経営者のサポートを進めてきたが、クラウド会計ソフトによって大規模な省人化、省力化が可能となる。比較して中規模・小規模の金融機関や、いわゆるノンバンクも営業力や顧客対応力を高めることができるだろう。
クラウド会計と「以前の会計ソフト」の違い
クラウド会計が以前の会計ソフトとどのような違いがあるのだろうか。筆者も事業でクラウド会計ソフトを使用しているが、主に以下のような特徴がある。
(1)勘定科目などの入力業務が進めやすい。(自動的に仕訳を行う)便利なサービスもあり、経理処理にかかる時間が短縮化できる。
(2)確定申告が楽。印刷も可能で、税務署に備え付けているような煩雑な書類を作成する必要がない
(3)カスタマーサービスが充実。自動化をしながら、不明点は丁寧なサービスセンターによる電話やメールのサポートが受けられる。
前出のfreeeには「許諾を得たユーザーの財務データを銀行と共有機能」がある。財務状況をリアルタイムに金融機関と「共有」することで、融資のタイミング、新規出店のための協議をすることができるのだが、これは中小企業経営者には頼りになるだろう。
金融機関は「マンツーマン」の時代へ
クラウド会計ソフトがさらに普及すると、中小企業経営者へのアドバイスはどう変わるのだろうか。
経営者が金融機関に赴くのは「決算報告」と「融資のタイミング(経営者からだけではなく、金融機関側からも含めて)」だったが、クラウド会計ソフトによって、極論をいえば「勘定科目ひとつまでの共有」が可能になる。経営者が望むなら、金融機関に“一挙手一投足まで”相談することもできる。
ただ実際の経営者の考え方はそうなっていない。筆者と仲の良い何人かのアーリーステージ企業(主に起業後2-3年のスタートアップ期の企業)の経営者に「クラウド会計ソフトによって、金融機関とさらに綿密になることを望むか」と尋ねてみた。
結果は大半の経営者が「監視力が強くなってしまう」という危惧を抱いていた。
クラウド会計の普及で「金融機関の代わりになるもの」
筆者は、クラウド会計ソフトの普及で、VC(ベンチャーキャピタル)とコンサルタントが経営者にとって、金融機関に代わる存在になると考えている。
VC側は、企業のリアルタイムでの成長を把握して「投資のタイミング」を計っている。
両者間をつなげる媒介役として、クラウド会計ソフトの存在感が増すのではないだろうか。ここでVCは資金調達を行う大企業や、エンジェル投資家も含めたい。
税理士やFPといったコンサルタントも金融機関に取って代わることができるできるのではないだろうか。
経営者としては、マイナスのデータが共有しづらい資金調達の相手よりも、アドバイザーとなれるコンサルタントのほうが、細かい経営データの共有に対しても抵抗感が少ないはずだからだ。
工藤 崇 FP事務所MYS(マイス)代表
1982年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後上京し、資格試験予備校、不動産会社、建築会社を経てFP事務所MYS(マイス)設立、代表に就任。雑誌寄稿、Webコラムを中心とした執筆活動、個人コンサルを幅広く手掛ける。ファイナンシャルプランナー(AFP)。
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