「パーンパパパーンパパパーン」 わずか20秒程のファンファーレは、競馬ファンならずとも胸躍る音ではなかろうか。
来る5月29日は、第83回日本ダービー。筆者、競馬に関してはど素人の為、お馬さんの細かなお話はまたの機会にし、今日は競馬にまつわる「税金」のお話をしよう。
「1億4000万円」の利益に対して「5億7000万円」の税金?
2015年5月、国税庁通達「競馬の馬券の払戻金に係る課税の取扱い等について」に記載の通り、従来までの当たり馬券に係る所得税の計算方法(通達34-1)が、一部見直された。発端は同年3月10に出た最高裁の判決。
2007年から2009年までの3年間、競馬で約30億1000万円の払い戻しを受けた男性に対する、税金の計算にまつわる解釈の相違だ。所轄の大阪国税の言い分では、納税額は5億7000万円。
30億円超の払い戻しがあるのだから当然、だと思わないでほしい。この男性が購入した馬券は、約28億7000万円分。実質、1億4000万円の利益だ。ところが、以前までの国税通達内容では、利益から必要経費として控除できるのが、年間の購入馬券総額ではなく、あくまで当たり馬券のみの購入費と定められていた。
この男性の場合、当たり馬券購入費のみを差し引くと、国税の言い分である所得額は、約29億円となる。1億4000万円と29億円、解釈の違いとはいえ、とんでもない差額である。
一般的な当たり馬券は「一時所得」 焦点は「必要経費」
先ほど「所得額」という言い方をしたが、ここで当たり馬券に対する、税金の計算方法をみてみよう。まず、競馬の馬券や競輪の車券の払戻金については、一般的には「一時所得」の扱いとなる。
一時所得は、生命保険の満期金や解約返戻金などもそれに該当し、簡単にいえば「毎年継続的に発生する収益ではなく、たまたま一時的に入ってきたもの」というもので、「継続的営利行為で行ったものは含まれない」という前提がある。
税額の計算方法は、
「(収入金額-必要経費-特別控除額50万円)×1/2」
に対して、他の(給与などの)所得と合計した後、所定の税率を掛けたものになる。補足すると50万円までの当たり馬券であえば税金は掛からない。
国税はこの「一時所得」での計算で、必要経費を通達通り「当たり馬券の購入費のみ」としたのだが、被告人である男性の言い分は、継続的な営利活動であり、「雑所得」に該当し、その経費は「年間の馬券購入費」である、としたのだ。
無申告は有罪判決 それでも納税額は5億円減額
この裁判はもともと被告人である男性が、3年間無申告であったため、国税が申告義務違反で告訴したものだった。結局男性は、無申告に関しては脱税有罪判決を受け、失効猶予1年と罰金5000万円余りを支払う判決を受けたのだが、もっぱら世間の注目は、「当たり外れ馬券が、必要経費として認められるか」だった。ゆえに実質、男性の「勝訴」となったわけである。
実は国税通達には、国民に対する強制力はなく、行政機関同士の示達に使われるもの。「法律」ではなく「規則」であり、下部の機関に対する拘束力はあっても、国民に対してはないのだ。
「外れ馬券」一般人は経費として認められない…
さて、話を判決に戻そう。ここで大切な注意点がある。先の男性は判決の結果、外れ馬券の購入費も、必要経費として認められたのだが、それには大きな理由がある。
通達34-1の訂正文の一部を転記しよう。
『(注)1.馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかである場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得として雑所得に該当する。 2.上記(注)1以外の場合の競馬の馬券の払戻金に係る所得は、一時所得に該当することに留意する。』
ポイントは、「自動購入」、「長期間」、「多数回」、「個々に着目しない網羅的購入」。つまり、一般の人が娯楽目的で馬券を購入し、払い戻されたお金は従来通り「一時所得」扱いとなり、必要経費も当たり馬券分しか認められない。
実際に別の裁判で、同年4月には、「営利目的ではない」との理由で、札幌国税局に対する1億9400万円の課税取り消しを求めた男性の訴えは、棄却された。
この男性は、ソフトウェアなどを使わずに、自分で馬を的中させていたことにより、「継続的な営利活動」と認められなかった。
考えてみれば、ソフトウェアを使わずに自身の頭で計算して的中させる方がある意味で偉業なのだが、税の壁は冷たいものだった。
せっかく儲けても、税金がかかる話ばかりで、気が重たくなる方もいるかもしれない。実際に競馬をしようと、馬券を購入する際なにか本人確認が必要なのかといえば、実はそうではないので、当たり馬券が誰に行ったのかなど、税務署が調べようもないのだ。
FPの立場から、正しい申告をする上であえて申し上げておきたいのだが、先の判決などの場合は、いずれも多額のお金を扱う為、当然紙の馬券をいちいち買っているのではなく、IPAT(アイパット)などのコンピューターを通した売買をしている。そのため、購入記録が克明に残っており、逆に「営利目的で、どれほどの額をどの頻度で、いつ購入したか」が、証明できたのだ。
5月29日、天気は晴天に恵まれることを願おう。
佐々木 愛子 ファイナンシャルプランナー(AFP)、証券外務員Ⅱ種、相続診断士
国内外の保険会社で8年以上営業を経験。リーマンショック後の超低金利時代、リテール営業を中心に500世帯以上と契約を結ぶ。FPとして独立し、販売から相談業務へ移行。10代のうちから金融、経済について学ぶ大切さを訴え活動中。
FP Cafe
登録FP
【編集部のオススメ記事】
・「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
・資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
・会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
・年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
・元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)