資金需要,財政政策,企業貯蓄率
(写真=PIXTA)

日本の長期金利(国債10年金利)は、マクロのファンダメンタルズ要因と金融政策要因で説明できることを解説してきた。

DIと米国長期金利で国内外の経済活動を見る

ファンダメンタルズ要因としては、企業貯蓄率と財政収支の合計で貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)と、失業率に先行する指標として知られ内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。

金融政策要因としては、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利と、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。これらに、グローバルな金利水準の代理変数としての米国債10年金利を加えれば、日本の長期金利がうまく推計できることが分かっている(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。

日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIは国内の経済活動の体温、そして米国の長期金利は海外の経済活動の体温を表す。

ネットの資金需要が財政政策を測る指数に

数年前までは、米国の長期金利を入れても入れなくても、推計結果に大きな違いがなかった。よって、モデルとしては国内要因の方が、圧倒的に重要である。しかし、昨今の大幅な金利低下は、日本国内の要因だけではなく、グローバルな金利水準の大幅な低下を理由にしないと説明が困難になってきている。

そして、日銀政策金利と日銀当座預金残高は、日銀の金融政策変数である。最後に、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要は、財政の政策変数であると考えている。

日本の内需低迷・デフレの長期化は、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことが原因であった。

言い換えれば、ネットの資金需要の水準が、企業の貯蓄率を前提として、どれだけ財政政策が景気刺激的なのかを示す政策変数であると言える。

実際に、2000年代は企業貯蓄率が大きく変動していても、ネットの資金需要はゼロ%近くに張り付き、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度、すなわち成長を強く追及せず、安定だけを目指す財政政策であったと言える。

アベノミクス再稼働には財政拡大が寄与できるか

ネットの資金需要の動きを見ると、バブル期にはGDP対比-10%程度、平均では-5%程度、デフレ期は0%程度、そして+5%程度になると信用収縮をともなうデフレスパイラルになると考えられる。ネットの資金需要は受動的な変数であるように見えるが、財政政策によってある程度コントロールできる政策変数と見なしているのが、このモデルの大きな特徴である。

企業貯蓄率が高く、景気が悪い時には財政赤字を増やし、企業貯蓄率が低く、景気が良い時には財政赤字を減らす。どの水準で、企業貯蓄率と財政収支をバランスさせるのか、すなわちその合計であるネットの資金需要の水準をどの位置にするのかは、財政政策の強さの度合いに依存すると考える。

財政政策を緩和し、ネットの資金需要の水準を0%程度から若干のマイナスにし、資金が循環し貨幣経済が拡大する力を復活させたのがアベノミクスのデフレ完全脱却への推進力であった。しかし、消費税率引き上げ後の財政緊縮などにより、ネットの資金需要はまた0%の戻り、その推進力が喪失してしまった。

今後、財政拡大などにより、ネットの資金需要を復活させ、アベノミクスを再稼動させることが期待される。このように、国内外の経済の体温、そして金融と財政の政策変数をもとにしたモデルとして、これらの変数を重要視している。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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