日本の長期金利(国債10年金利)は、マクロのファンダメンタルズ要因と金融政策要因で説明できることを解説してきた。
ファンダメンタルズ要因としては、企業貯蓄率と財政収支の合計で貨幣経済の拡張を左右するネットの資金需要(トータルレバレッジ、GDP対比、マイナスが強い)と、失業率に先行する指標として知られ内需の拡張を左右する日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIである。
長期金利は推測可能
金融政策要因としては、イールドカーブのアンカーである日銀政策金利と、日銀の資金供給(マネタイズ、買いオペ)の力を示す日銀当座預金残高の変化(前年差、GDP対比)である。これらに、グローバルな金利水準の代理変数としての米国債10年金利を加えれば、日本の長期金利がうまく推計できることが分かっている(1988年からのデータ、4四半期移動平均、98%程度の動きを説明)。
長期金利 = 0.189+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.73 政策金利+ 0.89 LN (米国長期金利)- 0.065 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)、R2= 0.98
一つの問題は、プラスの政策金利の時のモデルを、マイナスの政策金利の時にも応用してよいのかということだ。
プラスに比べマイナスであると、金融機関は保有国債をなかなか手放したがらないため、日銀の国債買入れオペの価格が強含みやすくなるとみられる。同じ10bpの政策金利の変化でも、長期金利に与える影響はプラスに比べてマイナスの時の方が大きくなると考えられる。
プラス金利時のモデルをマイナス金利の今、使えるのか?
マイナスの時のインパクトがプラスの時の何倍かを表す調整ファクターを政策金利にかけることで、その違いを含めることができる。
(1であれば同じ強さ、5であれば5倍のインパクトの強さを表す。)
長期金利 = 0.189+ 0.022 中小企業貸出態度DI + 0.73 (政策金利X調整ファクター)+ 0.89 LN (米国長期金利)- 0.065 (ネットの資金需要+日銀当座預金残高変化)
調整ファクターが1・2・3・4と変化するに従い、2016年4〜6月期の長期金利の推計値(米国の長期金利は1.7%程度を前提)は0.04%・-0.03%・-0.10%・-0.18%と変化する。現在の-0.1%程度の長期金利は、調整ファクターを3〜4倍程度とすると、マクロ・フェアバリューと考えることができる。
日銀はマイナス金利政策の導入で、当初の見込みより長期金利が低下したと見ているようだ。調整ファクターが1倍であれば、政策金利が-0.1%でも、長期金利は0.04%とプラスにとどまるはずであった。
国債買入れオペに対する負荷が増した分、調整ファクターが上振れたことが理由であると考えられる。言い換えれば、マイナス金利政策は国債買入れオペにかなりの負荷をかけてしまう分、長期金利はより押し下げたが、マーケットに日銀の追加金融緩和の限界を感じやすくしているといえる。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト
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