円安,円高,トレンド
(写真=PIXTA)

ドル・円の動きは、日銀の大規模な金融緩和で説明されることが多い。しかし、ドル・円のファンダメンタルズは、日銀だけではなく、マーケットの力と実体経済の力に左右されると考えられる。マーケットの力は、金融政策の方向性を織り込む日米金利差(国債2年金利の差)で表される。

内需停滞の中伸びていた、海外への直接投資も伸び悩み

実体経済の力は、国際経常収支と海外直接投資によるマネーの出入り、そして国内のマネーが膨らむ力(円の供給力)であるネットの資金需要で構成される。

マネーの出入りは国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグ、ネットの国内資金需要は企業貯蓄率と財政収支の和(マイナスの方が強い)を使う。この中で、リーマンショック後のドル・円の動きをかなりうまく説明できるのは、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグである。

国際経常収支の黒字額はリーマンショック後は大きかったが、その後の原油価格の高止まりと原発停止などによる燃料輸入の増加、そして外需対比で内需が堅調であったこともあり、2011年ごろから縮小トレンドに入った。

原油価格の急落、そして海外からの旅行者が急増加する一方で、消費税率引き上げの影響が大きく内需が停滞気味であるため、国際経常収支の黒字額は2014年ごろから一転して拡大しつつある。この間、海外への直接投資額はほぼ一貫して拡大してきたが、2014年ごろからは新興国の景気・マーケットの不透明感が増したこともあり、伸び悩んでいる。

国際経常収支と海外直接投資の差で、為替の動きは説明できる

結果として、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差(12ヶ月移動平均)は2010年ごろまで上昇(円高要因、)、2011年ごろから2013年ごろまでは下落(円安要因)、そして2014年ごろからは再び上昇(円高)に転じている。2009年4-6月期のGDP対比+0.1%が底で、2010年7-9月期の同+2.7%がピーク、そして2014年4-6月期が同-3.2%で底となっている。

ドル・円に即座に影響を及ぼす金利差に対して、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差は1-2年程度の時間をかけて緩やかにトレンドとしてドル・円に影響してくると考えられる。

2010年以降のドル・円をみると、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグとほぼ同じ動きをしていることがわかる。この間のドル・円とマネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差の12ヶ月移動平均の12ヶ月ラグの相関係数は-0.93とかなり高い。

2013年ごろからの円安への転換は、マネーの出入りである国際経常収支と海外直接投資の差が縮小に向かったこと、そして足元の円高は、その差が再び拡大へ向かったことで説明できる。ということは、過去のデータで、目先のドル・円の動きがほぼ説明できてしまうことになる。

円高圧力は弱まる要素がある

国際経常収支と海外直接投資の差が拡大しているということは、円高は不可避なのだろうか?

国際経常収支と海外直接投資の差が拡大に向かうと、海外からのマネーの入りが多くなり、円高になるとともに、国内貯蓄が増加すると考えられる。ドル・円の説明変数の中では、国内貯蓄の増加はネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の和、マイナスの方が強い)が縮小することを意味し、国内のマネーを膨らます力(円の供給力)が弱まってしまい、円高圧力を恒常的にすると考えられる。

実際に、2015年以降にはネットの資金需要が縮小・消滅し、海外からのマネーの入りがそのまま円高圧力になってしまったと考えられる。しかし、財政拡大や企業の投資行動により、この増加した国内貯蓄を使う動きが強くなれば、ネットの資金需要は縮小せず、円高圧力を弱くすることができると考えられる。通常、財政拡大は金利上昇を生み円高、財政緊縮は金利低下で円安と解釈される。

一方、現在の日本のように日銀の大規模な金融緩和などにより名目金利が上がらないという環境であれば、財政拡大はインフレ期待を持ち上げ、実質金利を低下させることと、ネットの資金需要が増加し、金融緩和の効果を強くすると考えられるため、円安への動きとなる可能性が高い。内需が拡大すれば、貿易収支の黒字に対しても減少圧力であり、円高圧力は弱まるはずだ。

年後半からの円安トレンド再開を見込む

国際経常収支と海外直接投資の差が拡大していても、その円高圧力を内需拡大などでオフセットすることは可能であろう。言うまでもないが、FEDの金融政策の方向性を含む、日米金利差も極めて重要な要因である。FEDの利上げ再開までの時間、円高圧力を回避するため、財政拡大が急務になってきていると考える。

実際に、日米金利差(国債2年金利の差の自然対数値)のウェイトを11.2、国際経常収支と海外直接投資の差のウェイトを4.1、そしてネットの国内資金需要のウェイトを-2.4でインデックスをつくると、ドル・円と同じ強さの相関関係(-0.93)を維持しながら、よりトレンドをうまくつかむことができることがわかっている。

今後、FEDの利上げの進行で日米金利差が拡大し、原油価格の持ち直し、内需の拡大、堅調な海外直接投資で国際経常収支と海外直接投資の差がピークアウトし、財政拡大と企業活動の持ち直しでネットの国内資金需要が復活するとみられ、年後半からは円安トレンドが再開するとみられる。

これらの要因の予測でインデックスを延ばしてみると、グローバルな不透明感などの短期的な変動はある。しかし、ドル・円のトレンドは現在の100円台がボトムで、中期的に120円台の円安方向に向かっていくことが予想される。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)