中国では校内暴力、深刻ないじめ問題などの報道はあまり見かけない。家庭教育において、自己主張や交渉能力の開発など、子供には中国人としての生き方をしっかり叩きこんでいる。
言われっぱなしの中国人というのは、妻にやりこめられる夫くらいで、みな必ず反論してくるタフさを持っている。したがって、引きこもり、いじめ、といった事例は社会問題にまで至っていない印象だった。
ところが、このほど沿海部の大都市Q市の地方紙に「校園暴力」の特集記事が掲載された。やはり中国もさまざまな問題を抱えていた。以下、その内容を紹介しつつ、中国の校内暴力問題を考察しよう。
人民法院(裁判所)の報告書
5月末Q市中級人民法院は、「十大校園暴力典型事案」「予防校園暴力法律冊子」を公表した。そして全市10カ所の下級人民法院が組織を挙げて「遠離校園暴力・法律護我成長」活動を展開するとした。
具体的には、「少年法廷開放日」を設け、1000人の小中学生を参観させ、法制意識の増強に努める。100名の校長や保安責任者を招集し、現状分析及び対策の講座を開講するなどの政策を挙げている。もはや座視している段階ではないのだろう。以下十大事案を見て行こう。
1.同級生のガールフレンドめぐる争い。被害者は殴打され死亡。
2.同級生間のケンカと報復の連鎖。鉄パイプ持ち出し、重傷負わせる。
3.小さな言い争いが発展。翌日学生宿舎に押しかけ重傷負わせる。
4.歩いていた2人が突如紛糾。周りの不良巻き込む騒動で重軽傷者出す。
5.長期にわたり不和の2人が休日の学校で遭遇。ケンカとなり重傷。
6.髪型を嘲笑されて報復に出る。刃物が持ち出され死亡者が発生。
7.以前住んでいた地区の中学を集団で連日襲撃、女生徒さらい強姦未遂。
8.体罰教師が鞭を使って生徒に暴行、生徒は幻覚症状に苛まれる。
9.校門付近で集団によるゆすりたかり。
10.男性教師による女生徒への猥褻行為。
いじめの分析
いずれも法院で有罪判決を受けた刑事犯例ばかりである。教師が起こした8と10を除き、当事者は自己中心的な理由にせよ、相手に対して反撃している。
純粋ないじめ事例は5だが、その他もいじめがからんでいるかも知れない。しかし自殺に追い込まれる、というパターンは報告されていない。もちろん表に出ていないだけ、という可能性はあるものの、中国では暴力的に暴発しやすく、日本では内にこもりやすい、とは言えそうだ。
そうした傾向はどうあれ、元を絶つことが重要なのは議論を待たない。中国のネット辞書にはいじめについて次のような記述がある。
「世界各国で毎日いじめ事件が発生し、学生暴力事件の報道は絶えない。その中には相当に悪劣、残忍なものも含まれ、人々を驚かせる。特に日本では重大な社会問題となっており、毎年多くの自殺者や、不登校現象を引き起こしている。」
「発生場所は校内のみではない。放課後の校外における行為も多い。典型的なケースは、身体強壮な学生が弱小な学生へ、心理的または肉体的苦痛を加えるもの。重複して発生し、単一の偶発事件ではない。いじめられるのは1人、いじめる方はグループである。通常被害者は相手を恐れ、反抗や告発に及ぶことは少ない」
日本は特別ひどいような書き方だが、後段を読めば、中国の状況も何ら変わりない。
40代は「昔はいじめはまったくなかった」と振り返る
Q市中級人民法院の責任者は、次のように発言している。
「未成年といえども侵害者に対し法律的制裁をもって臨むのは成人と変わらない。しかし成長途上にある少年にとって侵害者、被侵害者ともに影響は深遠だ。心理的陰影は3~40年にわたり持続するだろう。十大事案の1つ、髪型を嘲笑した相手を殺害した件では、当事者は無期徒刑に服している。このような事態に陥らないよう、家庭教育こそ人生最初にして最も深刻な課題であると自覚すべきだ。家長がこれを軽視したり、十分でなかったりすることは、少年を犯罪の深淵に導く。常に愛護の心と関心を持ち、必要なら法律手段を使っても自分と子供の権利を守るべきである」
40歳代の中国人に「あなたの子供時代にいじめはありましたか」と聞いてみると、口をそろえて「全然ない」と言う。物のない時代だったが、だからこそみなのびのびと過ごしていた。またこの世代以上の人は、どれだけ言葉で激しくやりあっても、手は出さない。こうした面では信頼に値する。
若い世代ではそうした信頼が揺らぎ、人間関係が、痛々しい危ういものになっている。これは日中を含めた世界共通の現象かも知れない。若い世代ほど何事においてもシンクロしやすい。
神仏の存在しない人間中心主義の中国では、問題解決の指針が少なく、いちいち当事者間に解決をゆだねるしかない。紛糾することも多く大変な手間である。大人の社会のように利益配分を調整して解決、というわけにはいかず、大人たちは戸惑うばかりだ。
とにかく「校園暴力」問題は、現代中国社会の在り方に猛省を迫るものとして、登場してきた。今後の推移に注目していきたい。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)
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