クラウドファンディング,被災地復興,東日本大震災,地方創生
閉店したマルカン百貨店(画像=Webサイトより)

6月7日に閉店した岩手県花巻市上町の老舗デパート「マルカン百貨店」復活を目指し、クラウドファンディングによる資金調達が動きだした。

運営引き継ぎを目指す花巻市のまちづくり会社「上町家守舎(やもりしゃ)」(小友康広代表)が始めたもので、2億円を目標にインターネット上で広く協力を募っている。

マルカン百貨店は花巻市唯一のデパートで、中心市街地にある上町商店街の中核施設だった。6階の展望台食堂は昭和の雰囲気が漂い、市民に長く愛されてきただけに、応援の声が市内各所から上がっている。

目標額2億円、市民からの寄付を広く募集

マルカン復活に向けた資金調達は、岩手県大船渡市のNPO法人が運営するクラウドファンディング「いしわり」上でスタートした。目標額は2億円。出資は1口1000円からで、最高額の100万円まで7つのコースを設定している。

特典としては、1万円を寄付すると展望台食堂で1番人気だった10段ソフトクリームの無料券を10枚もらえるほか、100万円だと10年間全メニューが10%引きになる大食堂プラチナカードを受け取ることができる。

募集期限は8月31日午後11時半。目標金額を達成すれば寄付がクレジットカードで決済されるが、期限までに達成できない場合、寄付を申し込んでいてもクレジットカードの決済がされない。

上町家守舎はクラウドファンディング以外に、銀行口座振り込みや説明会、講演会での寄付を受け付けるほか、「マルカン応援ワイン」、「マルカン思い出写真集」などマルカン百貨店をモチーフとしたモノやサービスの販売を企画し、売り上げの一部を寄付に回す。

いしわり上では協力者数、協力金額の途中経過が表示されている。21日午後1時現在、140人の協力者から512万8000円の寄付が集まっている。

6階の展望大食堂が花巻市の名物スポットに

マルカン百貨店は1973年、上町商店街の中核店舗として営業を始めた。鉄筋コンクリート8階建て、売り場面積約4,700平方メートルの店内では、1階から5階で衣料品や雑貨、家電製品などを販売し、市内や周辺自治体から多くの買い物客を集めてきた。

特に人気があったのが6階の展望大食堂。琥珀色の照明が昭和の雰囲気を演出し、スパゲティのナポリタンにカツを乗せた「ナポリカツ」や、高さ25センチの10段ソフトクリームが名物メニューに成長。上町商店街の人通りが少なくなってからも、500席以上ある大食堂だけはにぎわい、花巻市の名物スポットとなっていた。

しかし、開店から40年以上が過ぎた店舗は2015年、耐震診断で改修が必要と判定された。改修費用が億単位に上り、老朽化対策も迫られたことから、営業継続を断念し、閉店した。

街のにぎわい復活へ市や商工会議所も期待

今年3月の閉店発表後、市民の間で存続を求める声が出る中、まちづくり会社の花巻家守舎が耐震補強をしたうえで内部を改修するリノベーション案を打ち上げ、運営引き継ぎに名乗りを上げた。大食堂をそのままにし、1~5階に物販やオフィスなどテナントを入居させる構想だ。

耐震補強に必要な費用が1~1.5億円、施設整備、老朽化対策などを含めた総費用はざっと6億円と試算されている。このうち、4億円を金融機関からの融資で賄い、運営を引き継いだ店舗の売り上げなどで10年間かけて返済する。残り2億円は市民からの寄付を充てることにした。

入居テナントは5月末までで20社以上から引き合いがあり、協議している。花巻市に対してもテナントとして1フロアを活用してもらえるよう要請しており、市も前向きに検討中だ。大食堂は可能な限り今のまま残す方針で、運営引き継ぎ先となる複数の候補と交渉している。

運営引き継ぎには、花巻家守舎の小友代表が新会社の上町家守舎を設立して当たる。小友代表はコスト計算やテナントなどとの交渉で存続可能との手ごたえを感じているが、8月末までに資金調達などが難しいときは断念する可能性もあるという。

中心市街地のにぎわいを取り戻すためには、マルカンの復活は欠かせない。花巻市都市再生室は「上町家守舎から要請があれば、可能な限りの協力を検討したい」と前向きに語った。花巻商工会議所は「マルカンは商店街の中核。市民の宝でもあり、再出発を期待している」と述べている。

課題は集客力を持つテナントの確保

しかし、運営引き継ぎを成功させるには、クラウドファンディングでまず、2億円を調達しなければならない。資金調達がうまくいき、運営を引き継いだとしても、集客力を持つテナントが入居しなければ、上町商店街ににぎわいを取り戻せないだろう。

郊外型ショッピングセンターや通信販売に押され、中心商店街が苦境に立たされる中、どのようなテナント構成にし、マルカンビルに集客力を持たせていくのか、上町家守舎の真価が問われるのはこれからだ。

小友代表は「われわれの力だけでは実現が難しい問題を、多くのマルカンファンの力を結集して解決していきたい。クラウドファンディング以外でもみなさんの得意なことを組み合わせ、存続を実現させたい」と全国に協力を呼びかけている。

高田泰 政治ジャーナリスト このライターの記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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