英国のEU離脱が決まった6月24日、旧知の中国人女性(大企業事務職)がスマホ画面を見て悲鳴を上げていた。持株が緑表示(下落)一色に染まっていた。中国株も大幅下落か、と思ったが、24日の上海総合指数は、前日終値2891.96に対し、最安値2807.60、▲3.0%まで下落したものの、終値では2854.29とわずか▲1.3%に収まっていた。

日経平均の▲7.92%に比べればどうということはない。彼女がチャートを見ていた午後1時半ころは、確かにこの日の下値だった。彼女はなぜ大きく下落しているのか原因を把握できていなかった。こちらの方が問題だろう。

24日午後7時のCCTV全国ニュースでは最後から2番目

24日午後7時の国営CCTV(中央電視台)ニュースのトップは、98人の死者を出した江蘇省・塩城の竜巻と、それに対する習近平主席の全力救援指示だった。

2番目は7時7分より、ウズベキスタンのタシケントで行われている上海協力機構(SCO)会議の模様。習近平-プーチン会談、その後カザフスタン、アフガニスタン、ベラルーシ、パキスタン、インド、などの指導者との会談を延々と放送した。

3番目は7時18分より、第12期全国政治協商会議の分科会議閉幕に際しての兪正声政協主席による総括の様子。

4番目は21分より、ロシア副首相やロシア財界人と張高麗第一副首相と経済協力関係の会談。

5番目に25分より、健康医療に関する李克強首相談話と中央宣伝部、教育部の意見公布。

6番目に26分より宇宙船長征7号の打ち上げ準備関連ニュース。

7番目27分になって、やっと英国EU離脱のニュース。キャメロン首相辞意、EU本部の様子に触れ、各国市場の混乱を紹介した。最後に外交部報道官による、中国は英国の自主選択による発展の道を支持、とのコメントを放送。

29分にはドイツのテロ事件に軽く触れ、7時30分に終了した。

結局初めてCCTV午後7時のニュースを通しで見るはめになったが、そのあまりのつまらなさに、あ然とさせられた。名前を挙げた4人はいずれも共産党トップの政治局常務委員、チャイナ7の一員だ。まるで彼らによる出演枠争いのように見えた。とにかく指導者以外の声は聞こえず、全く人間味のないニュース番組である。

やはり独自視点の少ない新聞とネットニュースの扱い

次は新聞を見てみよう。前々日23日付、前日24日付の地方紙では海外面のいずれもトップ扱いで接戦を伝え、それなりの関心を示している。

ただし事実関係、評論とも国営新華社通信の配信記事を転載しているだけだ。地方紙が海外関係で独自記事を載せるのは、自社特派員によるレポートしかないようだ。今月、同紙が特派員を海外派遣したのは、中国極地探検隊への同行取材と、サッカーのユーロ杯である。

結果の明らかになった25日付紙面は、1面トップに加え2ページ半の特集を組み、かなり大きな扱いだった。とはいえやはり新華社ソースの公式見解ばかりだ。中に1つだけ記者署名記事があった。その内容は、アメリカの利上げ遠のく、中国株式市場への影響は大きくない、金価格は上昇の見通し、石油価格は現状維持の見通しとあった。これが唯一の記事らしい記事だ。

しかしあまり中国経済への波及懸念は見られず、むしろ中国にとって有利ではないかというニュアンスを感じさせた。

ネットニュースサイトは、24日夜9時の時点で、「今日頭条」は、1位、2位とも英国EU離脱のニュース、「捜狐新聞」の1位は、上海協力機構の中・露・蒙古会談、2位英国だった。

翌25日になると、今日頭条は、トップニュースから焦点というカテゴリーへ移動、捜狐新聞では、下位の方に一つ残っていた。財経という経済カテゴリーを選んでもトップ10の下位に2記事くらい出ているだけだ。とはいえ他のサイトも含め時間をかけて検索すると、香港発などの観測記事はかなりある。情報量は従来型メディアより豊富だ。

とはいえ疑問に思うこともある。例えば24日、人民元レートは1日で1ドル6.581から6.648まで急落した。2011年初頭以来5年振りの元安水準である。これについて触れている記事はごく少数だ。さまざまな観測があり得るため、政府見解が出るまでは口をつぐんでおこう、という待ちの姿勢にも見える。

今後の情報管理はネット中心に

一般の個人株主は、株価に影響を与える海外情報を知らず、海外ニュースの扱いは基本的小さく、内政不干渉のつもりか分析記事にも欠ける。やはり中国は西欧とは一線を画した独自情報の世界に閉じこもっている。それは結局中国にとって有利か不利かの視点に行きつく。

この独自情報の世界は

(1) 党の宣伝に大きなスペースを割くこと。
(2) 国内に深刻なニュースがあまりに多いこと。
(3) 中国人は損得のからまない他人(他国)への興味が薄いこと。

などの要因により守られて来た。これまではうまくいったとしても、もう型にはまったCCTVの報道など若い人は誰も見ない。

今後はやはりネットニュースが情報の主戦場になる。情報量は圧倒的に多い。これまでどおり別世界を保つことができるか、正念場である。今後、あらゆる場面で、権力と新しいネット世代のせめぎ合いが続きそうだ。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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