物価,追加緩和,成長率
(写真=PIXTA)

英国のEU離脱が決定するなど、グローバルな景気・マーケットの不安定感が続き、円高のリスクが大きくなった。輸出の停滞も長引くリスクも大きくなった。

成長率予測:2016年・2017年の実質GDP成長率予測を+0.7%・+1.6%から+0.5%・+1.2%へ下方修正する。

企業心理へ下押しが大きくなり、設備投資も抑制されることになろう。一方、政府・日銀の危機感は大きくなり、デフレ完全脱却へのコミットメントは強く、財政・金融政策による景気下支えが実施されるだろう。これまでの構造改革により高利益体質になった企業の収益は堅調さを維持するだろう。2016年・2017年の実質GDP成長率予測を+0.7%・+1.6%から+0.5%・+1.2%へ下方修正した。1%程度の安定的な物価上昇率と整合的な自然失業率の3.5%程度から3%を下回る水準に向けて失業率は更に低下し、実質総賃金が拡大し、内需は回復トレンドを続けるだろう。

成長率は、2016年は潜在成長率(+0.5%程度)なみとなるが、2017年にはそれを上回るだろう。グローバルな景気後退とならず、円高が持続的にならないことが予測の前提である。名目GDP成長率が長期金利をバブル期以来はじめて持続的に上回るようになっており、本格的なリフレ局面の入っていることに変化はない。

物価予測:2016年・2017年のCPI予測を-0.1%・+0.9%から-0.2%・+0.7%へ下方修正する。

総賃金がしっかりとした拡大を続けていることにより、1%程度の物価上昇の中期的なトレンドは継続すると考える。短期的にはこれまでの原油価格下落の影響と2014年の消費税率引き上げの需要抑制の影響が残り、トレンドを大きく下回り、テクニカルに下落している。2016年・2017年のCPI予測を-0.1%・+0.9%から-0.2%・+0.7%へ下方修正した。2017年には上昇に転じるが、需要超過幅の拡大のペースは明らかに遅れており、足元の円高もあり、物価上昇のペースも遅れるだろう。

ポジティブに考えれば、2017年以降は、物価上昇が賃金上昇に遅れることによる実質賃金の上昇が消費活動を刺激するという展開になっていくと考えられる。そのような需要の拡大が、失業率を更に低下させ、物価上昇に加速感をもたらすにはかなりの時間がかかるだろう。2%程度の安定的な物価上昇率と整合的な自然失業率は2.5%程度と見られるからだ。日銀が目指している2017年度中の2%の物価目標の達成は困難であり、更なる円安も必要で、達成は2020年度頃になると考える。

経済政策:7月の日銀の追加金融緩和を予想する。

もし、事前に緊急会合が開催されない場合、7月の日銀の追加金融緩和を予想する。英国のEU離脱により、ドル・円が100円を下回るリスクが大きくなり、日銀は次の展望レポートで物価見通しを大幅に引き下げる必要が出てきたのが理由である。マーケットの限界論を払拭するため「量」・「質」・「金利」のすべての手段を使う必要があり、マイナス金利の-0.2%への拡大、及びマネタリーベースの年間約80兆円の増加から約85兆円(ETFの2兆円程度の増額を含む)へ引き上げが考えられる。

日銀が買い入れる国債が不足する可能性が高くなり、2%の物価目標が達成される前に量的金融緩和のテーパリングが起きる可能性が出てきた。2019年10月の消費税率引き上げ後、実質GDP成長率がプラスに回復したことを確認した後、実施は2020年7月になろう。政策金利は目標達成まで据え置かれるだろう。7月の参議院選挙で連立与党が勝利し、アベノミクスへの国民の信任が示されるだろう。秋の臨時国会での景気対策はGDP対比2%程度(約10兆円)の大規模なものとなろう。1月の補正予算(約3.3兆円)、4月の熊本地震の復旧・復興予算(約1兆円)、と消費増税延期による家計の税負担の軽減分(約4.6兆円)をあわせると、15兆円以上の経済対策の予算を執行したのと同じになり、2009年度の経済対策補正予算(約14.8兆円)と同水準になる。

財政政策が緊縮から拡大に転じ、消滅していたネットの資金需要(アベノミクス1.0の終焉)が復活し、それをマネタイズする金融政策の効果も強くなり、アベノミクスのリフレ効果(アベノミクス2.0)が再び強くなるだろう。2020年の東京オリンピックまで、デフレ完全脱却への動きが加速し、実感する局面に入っていくと考える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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