アベノミクスの再稼働・加速へ?

自民党政権公約では、「一億総活躍社会を実現するために、回り始めた経済の好循環を更に加速させ、経済のパイを拡大することが不可欠である。あらゆる政策を総動員して、戦後最大のGDP600兆円(現在503兆円)を目指す。しっかりとした内需を支える大胆な経済対策を実施する。」と明言している。

アベノミクスを再稼動させるための大規模な景気対策は、10兆円程度の規模まで膨らむ可能性も出てきている。景気対策には、野党が批判している国民間と地域間の格差の是正策も含まれるだろう。連立与党はそれをアピールすることで、格差問題が国会で争点となることを防ぐだろう。自民党政権公約では、「経済のパイ拡大の成果を子育て・介護など社会保障分野に分配し、それをさらに成長につなげる成長と分配の好循環を構築する。誰もが、家庭で、地域で、職場で、それぞれの夢や希望をかなえられるよう、より多様性に富んだ豊かで活力ある社会を目指す。」とし、パイの分配にも目配りすることを明言している。公明党が公約に掲げている分配重視の政策も、政権の政策に盛り込まれていくことになろう。

自民公明の政権公約と日銀の存在感

金融政策に過度に依存した結果として行き着いたマイナス金利政策。金融機関だけではなく、国民の間でも評判は芳しくない。今回の政権公約では、金融政策に対する注文、そして2%という具体的な物価目標も無くなっている。2016年のG20、そして日本でのG7では、金融政策への過度な依存への反動で、財政拡大を含めた政策を総動員することで合意した。このグローバルな政策の方向性の変化が、自民党政権公約にも表れている。

イギリスのEU離脱問題などで、グローバルな景気・マーケットの不安定感が続き、FEDの年内の再利上げ観測も遠のいた。ドル・円が100円を下回る円高となるリスクも高まり、企業の値下げのニュースも聞こえ始め、デフレ期待の再燃も危ぶまれている。1月の日銀の追加金融緩和は「リスクの顕現化を未然に防ぐ」ことが目的で、フォワードルッキングに行われたものであるとしている。

緩和当時に想定していた以上に、グローバルな景気・マーケットの不安定感は増している。更に「リスクの顕現化を未然に防ぐ」追加金融緩和が、7月の金融政策決定会合で必要になってきている。政府の景気対策との合わせ技で、アベノミクスを再稼動させる印象をマーケットに与えることも必要になってきている。ただ、日銀よる財政ファイナンス(ヘリコプターマネー)という言葉が一人歩きしているため、政府の景気対策より前に行動することを日銀は望むだろう。

7月の追加緩和見通しは?

7月の金融政策決定会合で、日銀は「2018年度中」へ物価目標の達成時期を更に先送りし、追加金融緩和に踏み切る可能性があると考える。追加緩和の手段としては、マーケットの限界論を払拭するため「量」・「質」・「金利」のすべての手段を使う必要がある。マイナス金利の-0.1%から-0.2%への拡大、及びマネタリーベースの年間約80兆円の増加から約85兆円(ETFの2兆円程度の増額を含む)へ引き上げが考えられる。

貸出支援基金の金利を0%から-0.1%に引き下げることも議論されるだろう。もし今回使われなかった次元があるとすれば、その次元はもう限界に来ているとマーケットで認識されると考えられる。ただ、政府からの金融緩和への期待は縮小し、日銀の手段も限界に来ており、これが日銀ができる最後の追加金融緩和になる可能性が高い。<後編へ続く>

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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