問題は山積み? 「単なる偽善行為」の声も

一方で、「体現するだけで実行に移さないのであれば、単なる偽善行為だ」という非難の声も聞こえる。安全ピンをつけていても、差別を目撃して見て見ぬふりをするのでは意味をなさないということだろう。
安全ピンの発信元となったアリソンさんも、勇気を振り絞って体現と実行の境界線を乗り越えるように、呼びかけている。人種差別に反対すれば、差別する側から攻撃や非難の的にされる可能性も高い。しかし「危険をかえりみず、あえて安全ピンを着用する」という行為で満足しているだけでは、問題は解決しない。自ら差別撲滅に働きかける意志を持ってこそ、初めて安全ピンが意義あるものになる。

こうした体現行為が根本的な支援基盤を持たない、「幻想」であるとの指摘も多い。

例えば昨年9月にキャンペーンが実施された「Black Dot(手のひらの黒い点)」は、ドメスティック・バイオレンスの被害者からのSOSだ。家族やパートナーから、精神的あるいは肉体的な虐待を受けているが、口にだして助けを求められない被害者は数えきれない。安全ピン・サポートと同様、Facebookでの呼びかけから始まり、瞬く間に500万人のユーザーからの支持を得た。

時としてドメスティック・バイオレンスは、命に関わる深刻な問題となる。そのため、現在Facebook上でのキャンペーン自体は打ち切られている。「(社会福祉事業担当指導員や医師などの)専門家が所属しておらず、正式な機関にも認定されていない。中途半端なサポートはかえって危険だ」「加害者が被害者のサインに気づいて、虐待が加速する恐れがある」といった懸念が高まったのだ。

日本のマタニティマークは、こうした運動の負の側面が出てしまった例といえるだろう。「公共の場で座席を譲れと催促している」「子供ができない夫婦に優越感を誇示している印象を受ける」などと誤解され、嫌がらせ行為を生みだしてしまった。一つの思想を象徴化し、社会に正しい意味を浸透させるのは非常に難しいといえる。

誰の目にも明確なメッセージを発信すること、発信するだけではなく定着させるのに十分な、確固たるサポート体制を作ること。この2つが安全ピン・サポートだけでなく、運動を成功させる絶対条件となるはずだ。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)

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