他国では機動的な財政政策は減税
短期間で優良なプロジェクトをともなう政府支出を決めることは困難であり、公共投資に依存してきたことが、景気対策が「ばら撒き」と批判を浴びる原因となった。そして、ばら撒きという批判を政府が浴びることを恐れるので、大胆な景気対策を実施できなくなってしまう。
税収中立の原則を外し、賃金上昇前の拙速な消費税率引き上げで、苦しんでいる家計を大幅な減税で支え、刺激するのが自然な考え方のように思える。必要な財政支出が早急にまとめられないのであれば、疲弊した中間所得層を支えるためにも、税収中立の原則を廃止してでも、減税を行う必要もあるかもしれない。
金融危機とアジア通貨危機による景気後退に対するため、1999年に恒久的減税として導入された定率減税(2007年に廃止)の復活と、2016年からの即時実施も検討されてもよいと考える。税収中立という財政政策の束縛と障害を持っているのはほぼ日本のみだ。他国では機動的な財政政策は減税で行われる。
日銀の強い金融緩和政策により、国債10年金利がマイナスまで低下しており、新規国債を増発してでも必要とされる、経済対策を実施するのが理に適っている。参議院選挙の自民党公約や首相の発言では、「赤字国債に頼ることなく安定財源を確保して可能な限り社会保障の充実を行う」としている。
企業も金融政策もイノベーションが必要
しかし、社会保障ではなく、デフレ完全脱却のための景気刺激策としての赤字国債発行は、否定していないように思われる。税収中立という原則を打破して、景気動向に合わせて、赤字国債を発行してでも、フレキシブルな減税で景気刺激を行う必要もあると考える。
もちろん、逆も真で、景気が過熱していれば、フレキシブルな増税もあり得る。その基準は、景気動向を左右する企業貯蓄率(上昇=景気悪化)と財政収支の合計であるネットの資金需要を、減税などで財政赤字を拡大することで-3%から-5%程度に維持し、マネーがしっかり循環・拡大し、名目GDPもしっかり拡大できることだろう。
これまでは、企業貯蓄率が異常なプラス(企業の恒常的なデレバレッジ・リストラ)の中で、財政政策がフレキシブルではなく、ネットの資金需要は消滅してしまい、マネーと名目GDPが収縮し、デフレに拍車がかかってしまっていた。
成長戦略による企業のイノベーションの拡大が望まれている。賛否はあるにしても金融政策の手法にはイノベーションがあった。財政政策にもイノベーションが必要であろう。
財政問題の議論は、これまで会計・制度のミクロ経済学の方法論で硬直化し、マクロ経済学と社会学としての柔軟性が欠けていた。経済状況を見ながら、財政はフレキシブルに補正予算による景気対策を実施(毎年春には必ず)する必要があり、そのための財政プロジェクトの引き出しはいつもフルにしておくべきだろう。
会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト
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