7月下旬、時計や宝飾品などの仏高級ブランドのカルティエ(Cartier)が8月5日からほぼ全ての商品を平均して10%値下げすると発表した。
同社のリリースでは「昨今の為替変動を鑑み…」と、2016年の年初以来の円高が値下げの理由だとしている。ちなみに、前回、同社が値下げしたのは2010年10月、これも円高が主因だった。
リーマン・ショックが吹かせた、高級ブランドの値下げ風
前回の値下げは、ユーロの為替レートがリーマン・ショック直前の約170円から約2年で120円程度へ、率にして30%近い大幅な円高となったためだ。当時は08年9月のリーマン・ショックを契機に世界の経済や市場が大混乱に陥り、モノやサービスの需要は大きく落ち込み、資金の貸し渋りが横行していた。
各国中央銀行は大胆な金融緩和策に踏み込み、政策金利を大きく引き下げることで、混乱を鎮めようとした。ユーロの番人である欧州中央銀行(ECB)も6回にわたって利下げしている。結果、ユーロ金利は09年5月までのわずか8カ月の間に4.25%から1.0%に急低下した。一方、日本ではすでに政策金利が0.5%と低かったため、2回の利下げで0.1%にするのが精一杯だった。このため円とユーロの金利差が急激に縮小し、これが対ユーロ円高圧力になった。
加えてECBは通貨供給量を増やす、いわゆる量的緩和も行った。日本はリーマン・ショックの影響が比較的軽微だったこともあり、そこまで大きくは踏み込まなかったのだが、この差もユーロ圏から資金が溢れ出し、円高につながる要因となった。何よりも、円が安全資産と見られていたことが大幅な円高を招き、同ショックのわずか半年後の09年3月には、114円まで急速に円高が進むことになったわけだ。