Z Scoreにおける個別の財務指標の推移についても確認しておきたい(図表6~図表10)。2012年度との比較では、それぞれの財務指標の変化は、「運転資本」が増加(低CDSスプレッド20社:+1.2%、高CDSスプレッド17社:+2.6%)(図表6)、「剰余金(利益剰余金等)」が増加(低CDSスプレッド20社:+5.4%、高CDSスプレッド17社:+3.4%)(図表7)、「営業利益」が増加(低CDSスプレッド20社:+0.3%、高CDSスプレッド17社:+1.2%)(図表8)、「レバレッジ」が改善(低CDSスプレッド20社:+18.2%、高CDSスプレッド17社:+7.1%)(図表9)、「売上高」がほぼ横ばい(低CDSスプレッド20社:-5.1%、高CDSスプレッド17社:+4.2%)(図表10)である。
よって、アベノミクス下において、レバレッジの改善がZ Scoreの上昇に最も寄与してきたことが分かる。レバレッジの改善には株式時価総額の上昇が寄与しており、つまり、Z Scoreの観点から見ると、株式時価総額の上昇が日本企業の信用リスクの改善に最も寄与してきたことになる。
次に、高CDSスプレッド17社の直近の会計期末におけるZ Scoreの減少について原因を探ってみたい。各財務指標の推移から、主に「剰余金(利益剰余金等)」「営業利益」「レバレッジ」の3つが減少したことに起因していることが分かる。
つまり、高CDSスプレッド17社のZ Scoreの悪化は、「営業利益の減少」や円安等の影響によって「剰余金(利益剰余金等)の減少」が生じており、昨今の株安と資金調達需要による影響もあいまって「レバレッジが悪化」しているのが原因だと考えられる。一方で、低CDSスプレッド20社については、高CDSスプレッド17社と並べてみても特に悪化している状況はどの財務指標においても見られない。
また、本稿におけるZ Scoreの分析において、特徴的な動きを見せているのが「売上高」である。売上高に関して、低CDSスプレッド20社と高CDSスプレッド17社の関係に逆転現象が見られる。つまり、信用リスクが高いと考えられる企業の方が総資産に対する売上高の比率が大きく、AltmanのZ Scoreモデルの観点で「信用リスクが低い」ことを示していることになる。
しかし、低CDSスプレッド20社との比較で総資産に対する営業利益の比率が低いため、高CDSスプレッド17社は、売上に対して相対的に利益が上がっていない(収益性が低い)ことに注意しなければならない。
さらに、2012年度との比較で見ると、売上高に関して、高CDSスプレッド17社は4.2%上昇しているが、低CDSスプレッド20社では5.1%減少しており、一方で、営業利益に関して、高CDSスプレッド17社で1.3%、低CDSスプレッドで0.3%上昇している。よって、高CDSスプレッド17社において売上高の上昇をそのまま営業利益の上昇に繋げられていないことが分かる。
また、低CDSスプレッド20社については、売上高以外の要因で営業利益が上昇していることになるが、この点については、2012年後半以降の円安傾向やコスト削減等によって営業利益を増加させてきた姿が想像される。
以上から、日本企業における信用リスクの改善は、AltmanのZ Scoreモデルの観点から見ると「運転資本」「剰余金(利益剰余金等)」「レバレッジ」といったB/S科目の改善が主に寄与しており、「営業利益」や「売上高」といったP/L項目はあまり寄与していないということになる(そもそも日本企業において「売上高の増加」が、信用リスクの改善に真の意味で寄与するのか、疑わしい側面があると考えている(*10))。また、今後も日本企業の信用リスクの改善が継続していくには、収益性の改善を伴った営業利益や売上高の向上もテーマになっていくべきだと思われる。