8割の精度はどうやって実現しているのか
尹 8割の精度と言われていますが、どうやって実現されているんですか?
荻野 大きくわけて2つありまして、一つは先ほど申し上げた「こういうニュースならこうやって動くだろう」と因果関係が判明しているニュースを蓄積していること。そしてもう一つは、アナリスト陣による投票制です。
みなさんもご存知と思いますがが、個々のアナリストの予想精度は、実はあまり高くありません。Yahoo!ファイナンス上に「投資の達人」というものがありますが、数回以上予想されている方の精度はせいぜい6割くらいが限界です。しかし「51%以上」ということが大事で、コンドルセの多数決論で示されている通り、半数以上の参加者が正しい判断を出来るという前提において、その総意は正しい判断を導き出すと言えます。この数字の裏にあるのは、金融のプロは「こういうニュースなら上がるよね」というものに対して間違った判断をしないということです。
統計的には6割の予想精度のアナリストを十数名集めた時の多数決の精度は8割程度まで上がります。世の中には投票系の仕組みを採用しているサービスがいろいろありますが、49%以下しか当てられない素人をいくら集めたところで足の引っ張りあいをするだけで統計的には集めれば集めるほど精度が落ちますので、結果的に3割程度になってしまっているかと思います。まあ、そのサイトを使って逆張りをするという使い方もありますが(笑)。
でもこれは、統計学的に言えば当たり前の話なんです。ですから我々としては個々の特別なアナリストを用意しているのはでなく、「統計理論という仕組み」を信用しているということになります。
尹 意見が分かれる場合もありますよね?
荻野
当然あります。プロであっても意見が割れていることもユーザーがわかるようになっているので、「専門家の意見が食い違っているということは手を出さない方が良い、あるいは大きな値動きはしないんじゃないかな」といった判断をする材料になります。
短期売買と長期保有の本質的な違い
尹 「兜予報」ではあくまでも短期売買が前提ですね。
荻野 そうです。1時間以内にポジションをクローズする前提です。逆にそのスパンでみないとニュースと市場の関係をチャンスとみなす意味がありません。もちろん、その会社の業績が上がって株価も長期的に上がればいいのですが、市場はそんなに単純に動きません。結局、個別企業の株価は日経平均を含むマスマーケットの影響を大きく受けてしまうので、数か月後のマーケット状況に多分に依存してしまいます。
ですから、株を長く持つということは「日経平均を買う」または「セグメントを買う」くらいの認識がないとダメです。しかしながら、実際にはオーバーナイトで株を持つリスクについて理解していない方が多いんじゃないかと思います。日本時間の夜の間にFRBがどんな発言をするかわからないですからね。
一方で、超短期的な値動きにフォーカスするときの注意点としては「世の中がどう感じるか」という視点なんですね。たとえば去年、ある大手のメガネ屋さんがウェアラブル製品のプロトタイプを作るというニュースがありました。私のようなIT業界出身者から見れば「いまさらグーグルグラスのパクリ?」と感じたわけですが、結果として見れば株価は2時間で10%くらい上がりました。どういうことかというと、世の中ではグーグルグラスが製造中止になったことを知らない人が圧倒的に多いからなんですよ。
ですからそのニュースに対する正しいデイトレ判断としては、「ウェアラブルという流行りのキーワードが入っているニュースだから買いを入れて、上がったらすぐに売る」となります。その技術が企業にどういった長期的な影響を与えるかといった長期保有するときの株の選び方とは考え方が異なります。ちなみに現在、中長期の分析もやっており、データを蓄積しているフェーズです。