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対談した荻野社長(右)と筆者(左)(写真=筆者提供)

金融庁と日本経済新聞社主催で9月20-21日に行われたフィンテックサミット「FINSUM」のピッチランコンペにて「野村証券賞」と「大和証券賞」をダブル受賞したベンチャー企業がある。デイトレーダー向けの株為替予報サイト「兜予報」を昨年9月から運営する財産ネットだ。

FINSUMピッチランコンペでダブル受賞した「兜予報」

「兜予報」は、経済ニュースがその関連企業の実際の株価にどう影響するか、すなわち「上がるか、下がるか、織り込み済か」といった情報をアナリストやトレーダーが分析して投票し、さらに人工知能(以下、AI)による分析を加味してその予測を公開する独自のニュースキュレーションサービスである。2015年12月期には予想数260強で予報精度81.1%を達成している。

受賞が発表された9月21日から2日後、丸の内のFINOLAB(フィノラボ)において開催された私が主幹をつとめるデジタルハリウッド大学大学院サイバーファイナンスラボ主催のイベントにおいて、同社荻野調社長と「AIで株価は予測できるのか」をテーマにしたトークセッションを行った。

今回はその対談の模様をお伝えしたい。

ニュースと市場の関係 株価を動かす1%のニュースを検出する

兜予報さんではニュースを基に株価を予測するサービスを提供されていまが、ニュースと市場の関係については私も2002年に論文を書いています。ニュースのような定性的なものがマーケットに及ぼす影響を定量化できないかとモデリングを試みたわけです。

結論だけを言えば、ビッド・アスク・スプレッド(売り手と買い手の思惑の差)を流体力学のモデルにあてはめることで情報の質を判別する方向論を説いたのですが、たとえば9.11の前後の相場環境をモデルにあてはめて分析すると「同時多発テロという出来事が市場に与えたインパクトはそれ以前の5倍だった」ということがわかります。実は9.11が起きる前の夏、金融のプロ達の間では「経済が落ち込むのではないか」という懸念があったんです。でも、そういった漠然とした不安よりも、同時多発テロというわかりやすい不安は「ニュースとしてのエネルギーが大きかった」と評価することができました。

ただ、私がやったことは「大きなニュースが市場全体に及ぼす影響」の数値化です。荻野社長の場合は、個別銘柄ごとにニュースと株価の相関関係を予想されているわけですよね?

荻野 そうですね。ある銘柄のIRやPRが流れたら1、2分後には分かる仕組みになっていますし、あとは突発的な情報を漏らさず拾うためにツイッターも見張っています。それらを独自のクローラーを使って収集し、そのなかから株価に影響をもたらしそうなものだけを厳選して予報対象としています。

世の中のニュースの99%は株価の視点ではノイズですから、株価には影響がありません。株価の変動の多くは理由もなく取引のなかで作られていくものです。しかし1%のニュースは株価を動かします。

それ故、キュレーションサービスが必要とされているだろうという思いが当初からありました。検出に必要なシステムはIR、PR、ニュースをクロールしてくるクローラー、その中から「Hot Topic」となったものを検出するSNSアラートなどです。

ではどうやってノイズではないデータを厳選できるのかというと、過去の事例があるからです。「こういうネタがあったときに株価がこう動いたよね」と因果関係がはっきりしているものを蓄積しています。そうした情報だけをAIに学習させているからこそ、その後の予測精度が高まります。

単になんでもかんでも学習データとするのではなく、そこに因果関係があるのかどうかの判断をする人間を介在させることが情報の精度アップには必要です。

因果関係といっても、いろんなパターンがありますよね?

荻野 あります。誰が見ても「いい話」であれば株価に織り込まれるまでのタイムラグは短いですし値幅も大きいですが、たとえば地方銀行同士の包括提携のニュースなどは初速が遅かったり、内容が専門的なバイオテクノロジーや医療関連といったニュースは大して動きしなかったりする場合もあります。そういったさまざまなパターンも学習データとなります。