大阪府,民泊,宿泊税,国家戦略特区
大阪府庁舎(写真=PIXTA)

2017年1月から法定外目的税として宿泊税を導入する大阪府は、国家戦略特区を利用した民泊に適用範囲を広げる方針を固めた。大阪を訪れる外国人観光客が急増する中、東京五輪など大型イベントに備えて観光客受け入れ態勢の整備が急務となるためで、松井一郎知事が府議会本会議で明らかにした。

宿泊税導入は東京都に次ぐ全国2例目だが、民泊に適用するのは初めて。だが、無許可民泊施設の多くが特区民泊の許可を得て申告するとは限らず、課題も抱えたままのスタートとなりそうだ。

宿泊税は1月スタート、民泊への適用時期は未定

松井知事は府議会本会議で西野修平氏(大阪維新の会)の一般質問に答え、旅館業法に基づくホテルや旅館のみを対象としている府の宿泊税について「公平性の観点から民泊施設も課税対象にしたい」と適用範囲を拡大する考えを示した。

さらに、政府が特区民泊の滞在日数要件を民泊の実情に合わせて現行の「6泊7日」から「2泊3日」へ改める方針を打ち出していることを挙げ、新規参入業者の増加を見込んでいることも明らかにした。

府の宿泊税条例は大阪市を含む府全域が対象。税率は1人1泊の素泊まり料金で1万円以上1万5000円未満が100円、1万5000円以上2万円未満が200円、2万円以上が300円。1万円未満は課税されない。宿泊施設の経営者が宿泊者から料金を徴収し、翌月に一括納入する。

税収規模は年間10億円程度を想定している。ただ、2016年度は納入が2カ月分となるため、約1.7億円と見込まれている。集めた税収は旅行者への観光案内、情報提供の充実、宿泊施設や観光地での満足度を高める事業などに充てる。

宿泊税条例は3月の府議会で可決された。6月に総務大臣の同意を得て7月に公布されている。現在、納税義務者らへの通知や会計システムの準備を進めており、年度内に一部事業をスタートさせる計画だ。

宿泊税のスタートは1月からと決まっているが、民泊への適用には条例改正や総務大臣の同意が必要になる。通例、条例改正から同意まで2〜3カ月程度の時間がかかるため、適用時期はまだ決まっていない。

急増する外国人観光客、受け入れ予算はばく大

府が宿泊税の課税対象を広げる方針を固めたのには、2つの理由がある。1つは府の財政危機が続く中、外国人観光客が増え続けていることだ。

大阪観光局のまとめでは、2016年上半期に府内を訪れた外国人観光客は、中国人を中心に約450万人に達した。前年同期比1.4倍増で、過去最多を更新している。これに伴い、府内宿泊施設の客室稼働率も81.6%となり、なかなか予約を取れない状況が深刻さを増すばかりだ。

2020年に東京五輪やパラリンピックが予定されているほか、府は2025年の万博誘致を目指している。それだけに、観光施設の拡充は待ったなしの課題に浮上してきた。しかも、万博には会場建設だけで最低1200億円以上が必要と見積もられている。鉄道整備など関連費用を含めれば、さらにばく大な予算を確保しなければならない。

宿泊税の総額はそれほど大きくないが、安定財源としては十分に期待できる。特区民泊の滞在日数要件が緩和されれば、新規参入業者の増加が見込めるとして、民泊にも適用範囲を広げ、さらなる税収増を当て込んでいる。

もう1つの理由が宿泊業者の不公平感を抑えることだ。宿泊税導入に当たり、宿泊業界からは飲食店や量販店にも課税を求める声が上がった。一般客と観光客を見分けるのが難しいために見送られたが、民泊を対象外にできないとの判断があった。

大阪府企画観光課は「政府が特区民泊の滞在日数要件を2泊3日に政令で改正するのに合わせ、府の民泊条例も改める。宿泊税条例もこれと同時に改正する予定で、改正後は観光客受け入れ態勢の整備に有効活用したい」と語った。

どう進める無許可業者の正規参入

大阪府内には、インターネット仲介サイトを通じて宿泊予約を集める無許可の民泊施設がざっと1万件あるといわれている。

府は2015年4月から2016年9月までに違法民泊を確認した23施設に営業中止の行政指導をした。大阪府警も旅館業法違反の疑いで大阪市内に住む韓国、中国籍の男女3人を書類送検している。しかし、摘発されたのは氷山の一角で、大多数は野放しになっているのが実情だ。違法民泊がこれだけあれば、宿泊業界の不公平感を抑えるのは難しい。

10月末から民泊条例をスタートさせる大阪市の説明会には不動産業者らが殺到しているが、無許可業者の中には民泊施設が既に供給過剰に陥っているとの見方も出ている。今夏ごろから利便性の悪い地域や予算のかかる部屋へ予約が入りにくくなり、赤字で撤退に踏み切るところもあるという。

大阪府寝屋川市の不動産業者は「違法民泊が排除されれば、有望なマーケットになるが、宿泊税がかかるのを嫌がり、違法民泊を続ける業者が後を絶たないのではないか」と宿泊税導入が無許可業者の正規参入の妨げになるとの見方を示した。

府が特区民泊に認定した施設は20日現在で4件に過ぎない。違法民泊を排除し、正規参入させなければ、財政効果も上積みできない。府の真価が問われるのはこれからだ。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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