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(写真=Thinkstock/GettyImages)

今回は、FinTechが市場関係者のうち最も主要なメンバーである「証券取引所・証券会社」へ与える影響を考察する。

1 証券取引所に対して与える影響

JPX(日本取引所グループ)が中心となり、複数の証券会社・銀行が参加し数カ月にわたって実施されたブロックチェーン実証実験の報告書が今年8月30日に発表された。

本実証実験は、証券取引にブロックチェーンを導入するとして、現状の仕様・技術水準ではいかなる限界があるかないかを明らかにすることが主な目的となっており、筆者もマネックス証券の一員として参加した。

(報告の詳細は こちらの報告書本体 を参照されたい)

証券実務の観点からは、ブロックチェーンでは過去の記録の改ざんができないため、注文の取消・訂正ができないため、もう一度反対方向の売買を行うしかないなど、今までの市場慣行の修正が迫られるなど、興味深い発見があった。

ブロックチェーンを証券取引システムに導入する場合、現在は圧倒的なスピード不足であり、取引そのものではなく約定後の清算段階、または相対取引などに用いることが想定されている。

しかし、将来的にネットワークの帯域が飛躍的に増加し、各ノード(参加者)のハードウェアその他の物理的な能力が十分に向上したとしても、ブロックチェーンは各ノードのタイムスタンプを用いるので、各ノードのタイムスタンプが統一されていることが期待できない以上、各ノードから出された注文の先後が確定できず、現在の証券取引所の取引時間中の基本ルールであるザラ場(価格優先・時間優先という売買ルール)を採用できない。
ザラ場を採用したいのであれば、証券取引所その他の信頼できる第三者が、各ノードの注文のタイムスタンプを統一的に管理する必要があり、純粋なパブリックブロックチェーンを用いることは、取引段階では原理的にできない。

もっとも現在はハブ&スポーク型のネットワークとなっており、増え続ける証券売買注文・約定処理をハブとしてのJPXが全て受け止めざるを得なく、いずれ限界を迎える可能性もある。

とすれば、プライベートではあるものの、各ノードがネットワーク全体のデータ処理を引き受けるブロックチェーンに移行した方が、証券取引システム全体を構築・運用するコストは、現在のアーキテクチャーよりも大幅に軽減する可能性はある。

前述のような限界については、その限界を是正する形で、ブロックチェーンの外で既存のデータベースと組み合わせ、JPXその他の第三者がタイムキーパーとして参加するなどすればよい。

JPXは最も信頼できる参加者の一人としてタイムキーパーその他ネットワークの管理者としての役割を果たすが、コストの負担は従来に比べ大幅に軽減するというところがJPXにとってはメリットとなる。

そして証券会社のうち、主要参加者の数社がバリデータ(ブロックチェーンのブロックを承認するノード)としてネットワーク全体の品質・性能を担い、各ノード全体でネットワークのコストを担うという形にする方法が考えられる。

明治維新にたとえれば、証券取引所が大政奉還して、証券取引システムの在り方が幕藩体制から諸侯連合型に進む可能性がある。

いわば証券維新である。

ただし、明治維新と異なるのは、明治維新は、結局は諸侯連合のうちで薩長が中心となり徳川幕府を倒したが、証券維新においては、証券会社のどこも、幕府つまり現在の証券取引所の位置に座ることを欲しないであろうということである。

なぜならば、もともとがハブ&スポークのハブのコスト負担が高すぎるので始まる証券維新なので、だれかがまた証券取引所の位置に座ったら逆戻りしてしまうからである。

2 証券会社に対して与える影響

前述の証券取引所に対して与える影響で述べた通り、証券取引システムがブロックチェーンに移行した場合、主な証券会社はネットワークのバリデータとしての地位を、その他の証券会社は一参加者としての地位を占め、全体としてネットワークの維持・運営に関与していくものと考える。

しかし、一歩進めて考えれば、証券会社がブロックチェーンに参加せずとも、個人・法人などの証券保有者(以下「顧客」)が、ブロックチェーン上で氏名・住所など株主名簿に記載すべき情報を秘密鍵・公開鍵の形などでセキュリティを保ちつつ、上場企業と共有すれば、証券取引は証券会社を経由しないでもよいのではないかとも考えられる。

証券会社を経由して株式(「株券」ではなく)を購入する意味の本質的理由は、各顧客がそれぞれブロックチェーンに参加するよりも、証券会社を経由した方がブロックチェーンに与える負荷が軽減されるという理由でしかなくなり、それは技術的な理由であるので、いつかは解決される可能性が高い。

にも関わらず、顧客が証券会社を通じて株式を購入する理由は、顧客の不公正な売買を証券会社の売買審査を通じてストップする、または顧客が不誠実な経営を行っている企業の株式の保有は推奨しないよう顧客の保護をするという、資本市場のゲートキーパーとしての価値を果たしているからという点に尽きるのであり、そこが本質である。

その本質が果たせなければ、前述のように証券会社を経由する必然性はないのだから、そのような証券会社は消えるであろう。

ブロックチェーンの破壊力からは、誰も逃れられないのである。

三根公博、マネックス証券執行役員 この筆者の記事一覧

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