残業禁止,電通
(写真=Thinkstock/Getty Images)

電通社員の過労死がメディアで取り上げられたこともあり、働き方に対する議論が盛り上がっている。いまや「残業禁止」が世間の風潮となりつつあるようにさえ感じられる。

では、残業禁止で「過労死」は防げるのだろうか?
それで私たちサラリーマンは幸せになれるのだろうか?

残業禁止は現場に過重な負担を強いることになり、ますますブラック化が進行するのではないか。残業禁止で喜ぶのは人件費を削減できた経営陣という皮肉な結果にもなりかねない。

残業禁止?「どう考えたって無理だ!」

「◯月◯日より残業を禁止します」「すべての業務を定時に終えるように……」そんな示達にざわめきが起こった。

「でもさ、仕事は減らないんだろ」
「どう考えたって無理だ」

もっともな話だ。仕事の量は減らない。新たに人員が投入されるわけでもない。今までだってギリギリのところでこなしてきた業務である。それを残業を行わずにこなすにはいくつかの選択肢がある。仕事の効率をさらに高める。優先順位の低い仕事を切り捨てる。仕事の質を低くする。さて、あなたなら、どの選択肢を選ぶだろう。

私の周囲を見渡してもこれ以上の効率化が容易とは思えない。お昼時にコンビニの駐車場をのぞいてみると良い。弁当やパンを営業車のなかでかき込んでいるサラリーマンの姿をいくらでも目にすることができるはずだ。

かつてのテレビドラマでは、ランチタイムの1時間をたっぷり食事に費やすOLたちの姿があったが、今となってはそれも古き良き時代の話となりつつある。私の銀行では昼食もろくに取れない女子行員さえいるのだ。

「乾いた雑巾をさらに絞る」トヨタ自動車のコストダウンがまるで美徳のように語られるが、現場で働く者にとっては迷惑としか言いようがない。これ以上何を絞れというのか。

いつ爆発するか分からない「時限爆弾」

これ以上効率化が図れないとすれば、「優先順位」の低い仕事を切り捨てざるを得なくなる。それは、現場の管理職にとって恐ろしく勇気の要る作業だ。

そもそも優先順位なんて誰がどう判断するかでまったく異なる。人間である以上、その順位を間違うことだってある。少々の間違いであれば軌道修正も可能だ。しかし、次第に現場に余裕がなくなってくれば、それすらできなくなる。いつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えたまま業務に追われることになりかねないのだ。せめて、自分一人だけの仕事なら何とかなるだろう。しかし部下が抱える時限爆弾が次々と爆発するような事態になれば、現場の管理職はとても対応しきれない。

以前ならその日の懸案事項はその日に解決することが可能だった。ところが、今はそれができない。私のような金融商品を販売する部署であれば、まだマシだ。同じ銀行であっても融資の担当部署では、稟議作成に多くの時間が必要になる。昼間はお客様の対応に追われ、帰店後稟議を作成するようなタイムスケジュールではもはや、絶対的に時間が足りなくなっている。なぜなら、残業ができないからだ。そもそも銀行員のこうした営業パターンは残業ありきで成立していたのも事実である。

現場の管理職が最も怖れていること。それは部下が不正を働くことだった。しかし、今は違う。部下が仕事をこなしきれずに、隠してしまうことだ。顧客からの融資依頼に対応しきれず、その案件を隠してしまう。期日までに対応できず、顧客とトラブルになる。仕事を持ち帰ってしまった末、顧客情報が漏洩してしまう可能性すらある。最悪のケースは自分自身で資金を融通したり、他の顧客の預金を流用してしまうことである。

そんなことがいつ起こっても不思議ではない状況にあるのだ。管理職には、それを十分に監視するだけの余裕がなくなっている。もはや自分の部署ではトラブルは起きないでくれと祈るしかないのが現状なのだ。