最新の留学生事情を紹介した「中国出国留学発展趨勢報告2016」が発表された。それ以外にも、このところ留学生に関連してさまざまな報道が出ている。いくつかピックアップして、問題点を追ってみよう。
各国で第一位の留学生数
報告によると、米国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランドの英語留学の目的国では、中国本土出身の学生比率が、どの学年でも第1位となっている。その他を含む計8カ国で中国内地出身留学生数はトップである。米国、カナダでは留学生の3分の1を占め、英国、オーストラリア、ニュージーランドでは、20%以上、さらに韓国では45%、日本では62%にも上る。
中国の少なからぬ両親は、留学こそ子女への最良の贈り物と考えている。成金階級はほぼすべてだろう。こうした思考から、出国留学生総数は伸び続け、2015年52万人、2016年には56万人と見込まれている。
また留学生の低年齢化も進んでいる。中国本土の国際学校など回り道だ。学校の“素質”が良くない上、学費も高い。例えば深セン市の国際学校は、年間の学費が13万~16万元(200~250万円)もする。それなら早めに留学させた方がよい。
中国人は米国には向いていない?
米国の中学、高校に早めに留学した者は、そのまま米国の大学入学を希望する。しかし大学卒業後は、帰国する者が多い。アメリカンドリームを追いかけるには、中国人は打算的に過ぎ、体質が合わないのだろう。現実に即した判断である。
実際に、留学生の帰国者数は2011年以降、急速に増え始めた。同年18万6200人、2012年27万2900人、2013年35万3500人、2014年36万4800人、2015年は50万人を突破した。なお1978年~2014年までの36年間累計では351万8400人、帰国人数は180万9600人という。
2015年3月には、カリフォルニア州のハイスクールに留学中の中国人男子学生数人が、16歳と18歳2人の同国人女子学生を襲う、という事件が起きた。5時間にわたり暴行を加える陰湿な犯行だった。中国で家族と共にある場合には、起こりえない事件だ。この件は中国人は法のもとよりも家族のもとにあるべき、との認識を新たにさせた。
落下傘子女(帰国子女)の悩み
そして「落下傘子女」と呼ばれる帰国子女は急増している。「国際先駆導報」というメディアは、落下傘子女の多くは「新貴族」であると指摘している。金持ちの父母は、彼らに金銭を注ぐほどには、愛情を注いでいない。しかし親の元から離れられず、彼らは内心の“空虚な寂寞”を抱えて生きている。そしてその隙間を埋めるため、親の金を浪費する。
米国の外交専門誌「外交政策」はかつての、素朴、勤勉で愛国心に満ちた中国人留学生はもういない、と断じている。1980年代の中国人留学生は、祖国のために役に立とうという信念をもち、米国社会に溶け込もうと努力し、アメリカンドリームを米国人同様に追っていた。
それに対して今の中国人留学生は、親の金をばらまきながら、金融や経営を学び、投資銀行業務まで経験させてもらう。その後は帰国して「家業」を継ぐことこそ彼らのチャイニーズドリームである、と皮肉っている。
結局、どれだけ欧米流の教養を身に付けようが、中国人である以上、家業に回帰するしかない。彼らの人生は留学しようがしまいがあまり変わらないのだ。こうしてみると留学生の数で中国と競っても、ほとんど無意味であろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)
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