企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていると考えられる。

日本経済を深刻化させたものとは?

アベノミクス前後で、企業貯蓄率は順調に低下し、企業活動の回復により総需要を破壊する力が弱くなり、循環的な内需回復とデフレ緩和が進行してきた。

しかし、昨年からのグローバルな景気・マーケットの不安定化などにより、企業貯蓄率はリバウンドしてしまい、循環的な景気回復力が衰えてしまっていることを示している。もしこれまでの企業貯蓄率のリバウンドが、デレバレッジとリストラの再発であれば、景気循環は後退局面に入っており、今後はデフレがより深刻になっていくことになる。

一方、企業の中の単純なキャッシュの滞留であれば、それが投資、雇用、賃金、配当などでマーケットや経済に出てくることにより、今後の循環的な景気回復を加速させる力となり、デフレ完全脱却へ向かう力も再び強くなることになる。

国内の資金需要・総需要を生み出す力である、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要が消滅してしまい、マネーが循環せず貨幣経済が拡大することができなかったことが、日本経済の内需低迷とデフレの問題をより深刻化してきたと考えられる。

政府・日銀を極端な政策に誘うリスクとは?

震災復興とアベノミクスの財政拡大、そして企業貯蓄率の低下により、このネットの資金需要が復活したことが、デフレ完全脱却への力となってきた。

しかし、企業貯蓄率のリバウンドと、2014年の消費税率引き上げを含む緊縮財政により、ネットの資金需要が消滅し、その力が衰えてしまった。ネットの資金需要が消滅しているため、それをマネタイズする日銀の量的金融緩和の効果は限定的になり、マネーが拡大できないことにより円高が進行し、企業と政府からの支出が家計の所得につながる動きも弱くなってしまっている。

グローバルな景気・マーケットの安定化により企業貯蓄率が再低下し、財政が緊縮から拡大に転じれば、ネットの資金需要が復活し、これまでのような円安・株高・物価上昇というアベノミクスの形が再生すると考えられる。

一方、緊縮財政などによりネットの資金需要が復活しなければ、円高・株安・物価停滞が継続し、アベノミクスに対する信任が失墜するとともに、デフレ期待が復活してしまうリスクとなろう。

アベノミクスとは間逆の緊縮により経済を立て直すという方向性に再び転じ、それが景気・デフレを悪化させる失政となり、次は政府・日銀の極端な政策につながるリスクとなろう。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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