私たちは「水リスク」とどのように向き合うべきか?

水の重要性を理解する上で、欧米企業の取り組みで重要な概念として「ウォーター・スチュワードシップ」がある。

「ウォーター・スチュワードシップ」とは、ある場所の水に関わる全ての関係者(企業や地方自治体、コミュニティなど)によって統合的に水の資源管理を行い、相互にサポートし、貢献することを目的とするものだ。

「ウォーター・スチュワードシップ」を実施すると、社会的に公平な水利用を行うこと、水と衛生に関する人権配慮を始めること、そして人間の幸福と公平性を確保することができるとされている。

また環境面においても、分水嶺レベルでの生物多様性、生態系などを維持、改善することができるとしている。経済的にも有益である水の使用は、水の使用者やコミュニティ・社会のために長期的で持続可能な経済成長と発展、そして貧困削減に貢献することができるということなのである。

「水リスク」に対応する世界的な動き

このような水リスクに対応するための議論を行う機会が、世界各地で国際会議として定期的に開催されている。その国際会議の一つに、毎年8月下旬にストックホルムで開催される「ワールド・ウォーター・ウィーク」がある。そこでは国家レベルでの水への対応とともに、企業レベルでの対応の議論がなされている。

今年の「2016ワールド・ウォーター・ウィーク」では、前述の「ウォーター・スチュワードシップ」に則った欧米企業の積極的な取り組みが報告されている。また、国際環境NGOのWWFは「ウォーター・スチュワードシップ」のプログラムを企業に促し、ザ・コカコーラ・カンパニー、マークス&スペンサー、SABミラー、H&Mなどがこのプログラムを活用し水リスク対応を先進的に行っている。

欧米企業の活動に学ぶべきこと

このほか、近年立ち上げた「スウェーデン・テキスタイル・ウォーター・イニシアティブ」ではH&Mやイケアなどのアパレル関連企業が参加し、「水の効率的使用」「水の汚染予防」「廃水の処理」等について検討を始めている。

特筆すべきはこのイニシアティブのスタンスだ。つまり、最初から有効な解決策を求めるのではなく、第一段階としてイノベーションへ結び付けるために協働で解決策を模索する機会をつくり、議論を始めることを重視するスタンスである。また、競合他社であっても環境や社会問題に関しては、解決策を模索するためのコラボレーションを積極的に行うことができる点も注目される。

世界では、水問題を「リスク対応」としてだけでなく、機会としても受け止め、競合他社ともコラボレーションを行う方向で加速している。欧米企業は環境や社会問題に危機感をもって取り組み始めているのである。

こうした欧米企業の活動は、日本企業にも大いに参考になるはずである。これからの時代、「水リスク」に限らず、環境や社会問題をおろそかにする企業は持続的発展がおぼつかなくなる。私たちも、そうした観点から企業を評価しなければならない時代を迎えている。

下田屋 毅(しもたや たけし) Sustainavision Ltd. 代表取締役
英国在住CSRコンサルタント。日本と欧州のサステナビリティ/CSRの懸け橋となるべくSustainavision Ltd.を2010年英国に設立。ロンドンに拠点を置き、サステナビリティ/CSRに関するコンサルティング、リサーチ、研修を行う。ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当:CSR)

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