2017年4月の都市ガス小売り全面自由化を控え、公営ガス事業の民営化方針を打ち出していた新潟県柏崎市は、優先交渉権者に同県新潟市の都市ガス業者北陸瓦斯を選んだ。ガス自由化に備え、公営ガスが民営化されるのは群馬県富岡市に次いで2例目で、公営ガス大手に当たる宮城県仙台市や滋賀県大津市も民間への事業譲渡に動いている。
公営ガスは国の規制がなくなっても料金変更などに議会の承認が必要で、機動的な対応を取りづらい。このため、ガスパイプラインが整備され、都市ガス大手や電力会社と競合する地域では、民営化の動きが加速しそうだ。
柏崎市は北陸瓦斯を優先交渉権者に選定
柏崎市は2018年4月の事業譲渡を目指し、プロポーザル方式で譲渡先を公募していた。プロポーザル方式は民間企業が提出した提案書を審査し、総合評価で受託者を選ぶ入札方式の1つだ。
1次審査には計3社が応募し、うち2社が2次審査に進んだ。市ガス事業譲渡先選定委員会で審査の結果、保安体制の水準の高さやガス事業を通じた地域貢献などが評価され、北陸瓦斯が優先交渉権者に選ばれた。
市は人口約8万6000人。終戦直後の1945年から公営ガス事業を続けてきた。2015年度実績で約2万8000の一般世帯、事業所などに都市ガスを供給し、約29億円の売り上げを上げている。全国の公営ガスの中では中堅規模の販売額となる。
2006年に市のガス事業検討委員会から民営化を求められ、作業を始めたが、翌年の中越沖地震で被災したため、災害復旧を優先して作業を中断した。災害復旧債を2017年度末で一括して返済できるめどが立ち、再度民営化に向けた手続きを再開していた。
市は年内に北陸瓦斯と基本協定を結び、2017年2月に仮契約を締結する予定。定例市議会で譲渡議案を可決したあと、本契約を結ぶ。柏崎市ガス水道局は「パイプラインが首都圏とつながり、競争の激化は避けられない。公営企業としての使命も既に果たし終えた」と民営化に踏み切った理由を説明した。
富岡市は2017年4月から堀川産業に事業譲渡
富岡市はガス事業譲渡先選定委員会を設置して1月から公募してきたが、7月に埼玉県草加市の都市ガス、LPガス(液化石油ガス)業者堀川産業と公営ガス事業譲渡の本契約を結んだ。既に経済産業省関東経済産業局へ事業譲渡の許認可申請を出しており、2017年4月1日付で民営化する。
市は人口約4万9000人。1963年から公営ガス事業に取り組んできたが、2008年にガス事業検討委員会から事業譲渡による民営化を求める答申があった。その後、市民アンケートで過半数が公営維持を希望したため、民営化を凍結していたが、利用者は2003年度の約8400件から2014年度に約7300件へ減少している。
さらに、市の財政が悪化してきたうえ、パイプラインが首都圏とつながっていることから、競争激化が避けられないとして民営化やむなしと判断した。2015年実績で約7200の一般家庭や事業所などへ都市ガスを販売し、6億3000万円を売り上げている。
富岡市ガス水道局は「公営ガスのままでは電気とのセット料金やさまざまな割引サービスを展開できる民間業者との競争に勝てず、利用者の減少傾向にも歯止めをかけられない」と語った。
堀川産業は「地域密着の運営で地元に貢献したい」としており、富岡市内に支社を置き、北関東のガス販売拠点としていく考えだ。
大都市圏周辺では今後も民営化が続く公算
総務省によると、公営ガスは明治時代からあり、高度経済成長期の1960年代に急増した。1975年から77年のピーク時には、寒冷地が多い東日本を中心に75の事業者があったが、市町村合併の進行や天然ガスなど高カロリーガスへの転換による設備投資の負担から、民営化するところが相次ぎ、26まで減少している。
それでもこれまでは国の規制に守られ、都市ガス大手より高い料金でも営業を続けることができた。しかし、自由競争になれば、そんな殿様商売は通用しない。公営企業といえども、民間企業並みのサービスをしなければ、生き残れないことになるからだ。
国内のガスパイプラインは首都圏など3大都市圏に集中し、東京都と愛知県名古屋市さえ結ばれていない。整備済みの場所は国土のざっと6%ほどにとどまる。パイプラインの整備は莫大な費用がかかるため、新規参入業者が簡単に手を出せるものではない。タンクローリーで陸上輸送するとしても、コストがかかって割高になる。
首都圏や近畿圏とパイプラインがつながっていない地方では、ガス自由化になっても参入する民間企業は少ないとみられる。このため、地方の公営ガスはもうしばらくの間、役割を果たすことができるだろう。
しかし、北関東や新潟県のように大都市圏とパイプラインが接続されている場合、競争の波に飲まれることは間違いない。公営ガス民営化の動きは今後も続きそうだ。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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