ブラック企業,株式投資
(写真=PIXTA)

長時間労働、正社員と非正規社員の賃金格差など日本の労働環境は欧米諸国と比較しても劣悪な状況にあり、政府も働き方改革を通じてその是正に努めている。日本経済が低成長から抜け出せず、1人1人の労働者にかかる負担が大きくなる中、電通の新入社員が過労自殺したニュースなど、労働環境の改善に社会的に大きな注目が集まった。

長時間労働、賃金格差、セクハラ・パワハラなどの問題が蔓延する企業に対し、大学教授や弁護士、映画監督などが委員会を立ち上げ、「ブラック企業大賞」を選ぶ動きもある。候補にノミネートされた企業は、会社のイメージ悪化につながり、株価への影響も少なからず生じる。今回は、ブラック企業大賞に名前の挙がった企業の株価パフォーマンスに着目する。

労務問題に株価が敏感反応

この賞は、ブラック企業大賞実行委員会が、労働法などの法令を遵守せず、グレーゾーンともいえる条件で従業員に労働を課したり、パワハラなどの暴力体質がはびこっていたりするケースをブラック企業と定義し、該当企業を選定。ノミネートされた10社から、一般投票を経てブラック企業大賞2016年を決定するものだ。名前の挙がった企業で上場している社については次の通り。

エイジス <4659>

棚卸代行大手のエイジスは、月100時間を超える違法な長時間労働を従業員に課したとして千葉労働局から是正勧告を受けた。厚生労働省が15年から違法な長時間労働を繰り返す企業の公表に踏み切っており、全国で初めてエイジスの企業名を公表した。5月に企業名が明らかになると、株価は続落。3000円台の水準にとどまったが、社長をトップとして、外部専門家の意見も取り入れたプロジェクトチームが発足すると、株価は急反発し、夏場には6000円台を回復し、足元でも5000円台前半の水準で推移している。

電通 <4324>

新入社員の自殺が三田労働基準監督署から労災認定を受けていたことが10月に判明し、11月には東京本社と関西と中部、京都支社にもそれぞれ労働基準法違反容疑で強制捜査のメスが入った。この直後の11月9日には株価が終値で5000円を割り込み、投資家心理が冷え込んだ。トランプ相場にも乗り切れず、株価は5000円台半ばを挟んだ取引で、1月の年初来高値となった6660円には遠く及ばない。

ドンキホーテホールディングス <7532>

都内の町屋店などで従業員に違法な長時間残業をさせたとして執行役員8人が書類送検され、労働基準法の長時間労働違反の罪で、東京簡裁から略式命令として50万円罰金を受けた。1月下旬に書類送検された後、株価もつられて下落し、2月には年初来安値となる3260円まで下落。1年を通して株価が大きく振れたが、米大統領選後は、上昇トレンドに乗り12月には年初来高値を付けている。

関西電力 <9503>

高浜原発の運転延長に関し、原子力規制委員会の審査担当の職員が4月に自殺。月の残業時間が最大200時間に及ぶこともあり、敦賀労働基準監督署が労災認定した。この職員は管理職だったため、労働基準法が定める労働時間の制限は受けないものの、関電には勤務時間や健康について把握する義務が生じる。

関電株は夏場に年初来安値まで落ち込み、10月も労災認定などが重石となり株価が低迷し、1000円台を割り込む水準だったが、直近は1300円台まで回復し、1月に付けた年初来高値(1450円)に迫る勢い。

サトレストランシステムズ <8163>

「和食さと」などを運営する飲食チェーン。9月に労使協定で定めた上限40時間を超える違法な時間外労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで大阪労働局が法人・サトレストランシステムズと本社部長や店長合わせて5人を大阪地検に書類送検。

また、従業員に対して残業代の一部が未払いだったことが判明し、600人を超える従業員に対し計約4億円を支払った。この事実の判明を受けて、9月末には株価が下落。一時800円割れ目前まで迫った。その後も回復基調に転じず、800円台前半での取引が続く。

今回、ブラック企業大賞2016年にノミネートされたうち、上場している企業の株価については、労務問題に投資家も敏感に反応し、株価を下げる局面が続いた。企業としての業績も去ることながら、利益を生み出す労働環境にも投資家は目を光らせつつある。

取り上げた企業以外の残る半数は非上場だが、プリントパック、佐川急便、仁和寺、ディスグランデ介護、日本郵便と世間に名の知れた企業の名前が並ぶ。労務問題を放置すれば、社会からのしっぺ返しは企業にとって何倍ものダメージとなる。ブラック企業大賞のノミネートされた企業を教訓に、それぞれの会社が従業員の働き方にも真摯に向き合わなければならない。(ZUU online 編集部)

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