著名投資家のジム・ロジャーズ氏がロシアへの投資拡大を検討しているようだ。ロジャーズ氏はイングランド銀行に勝利した男の異名を持つジョージ・ソロス氏とヘッジファンドを立ち上げ、巨額の利益を稼ぎ出した世界でも指折りの投資家である。ロジャーズ氏は冒険投資家とも呼ばれ、世界中を旅して肌で感じ取ったことを投資にも活用するなど個性的な投資家としても知られる。

そんなロジャーズ氏が米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利して以降ロシアへの投資に意欲を高めているようだ。なぜロシアへの投資に積極的なのか詳細は明らかにされていないが、2017年の投資戦略を考える上で、今回はロジャーズ氏がなぜロシアに注目しているのかを探っていこう。

ロシア買いの理由1:米ロ関係の改善に期待か

米大統領選挙でトランプ氏が勝利して以降、ロシアの代表的な株価指数であるRTS指数は大きく上昇している。世界的に株価が上昇しているため、ロシア株も上昇して当然といえば当然なのだが、ロジャーズ氏は株価だけではなく米ロ関係の変化に注目しているようである。

現在、ロシアはウクライナ情勢をめぐって欧米諸国から経済制裁を受けている。ウクライナをめぐってはこれまで欧米諸国とロシア側で幾度となく対立があり、両者の間で根深い問題となっている。

簡単にウクライナ問題について解説しよう。ウクライナ国内は親欧米派と親ロシア派で分断されており、これまでも親欧米派を支援するEUとアメリカ、親ロシア派を支援するロシアという構図となっていた。最近では親ロシア派が多数派を占めるクリミア半島が独立を表明し、親欧米派のウクライナと武力衝突が発生するなど泥沼化している。当然、ロシアは親ロシア派をひそかに支援しており欧米側との対立が深刻化、EUやアメリカなどの西側諸国はロシアに対して経済制裁を発動している状態となっている。

このように、アメリカとロシアの関係は必ずしも良い関係とは言えなかった。しかし、トランプ氏はロシアのウラジミール・プーチン大統領を尊敬していることを公にしており、トランプ氏が大統領に就任すれば米ロ関係が改善され、経済制裁の緩和などロシア経済にとってプラスの影響が大きいと考えられることから、ロジャーズ氏はロシアに注目している可能性がある。

ロシアへの経済制裁としては、制裁対象者となるロシア企業やロシアの政治家とアメリカ企業が取引することを禁止したり、アメリカにあるロシアの制裁対象者の資産凍結などがあげられる。また、これまでEUとアメリカは協力して対ロシア制裁を強化してきた。世界一の超大国であるアメリカとEUの足並みが乱れれば、ロシアにとってはおいしい話だといえるだろう。トランプ氏が大統領に就任すれば、これらの経済制裁の緩和や西側諸国間の協調が乱れる可能性があり、ロシア経済にとってもプラスになる可能性が高い。

このように、ロジャーズ氏は政治的要因で今まで抑え込まれてきたロシア経済が米ロ関係の改善により大きく成長すると考えているのではないだろうか。

ロシア買いの理由2:原油価格の回復も要因か?

昨年までの原油価格の下落や経済制裁によりロシア経済は一時マイナス成長となっていた。しかし、石油輸出国機構(OPEC)の加盟国が原油の減産で合意したことなどを受けて足元原油価格は大きく回復してきている。ロシア経済は資源への依存度が比較的高く、原油価格はロシア経済の成長率に直結する問題である。

トランプ氏は大規模なインフラ投資や減税などアメリカの成長率を押し上げる政策を掲げており、アメリカ経済の成長が加速して世界経済をけん引すれば今後も資源需要が高まり原油の需給が改善する可能性がある。資源需要が高まれば資源大国であるロシアにとってもプラスとなり、米ロ関係の改善とも合わさればロシア経済の回復にも大きな追い風となるだろう。

ロジャーズ氏はもともと資源などの商品投資に積極的な姿勢を過去にも示してきた。原油価格の回復やアメリカの成長加速を考えて資源大国であるロシアへの投資を拡大しても不思議ではないだろう。

金価格や中国については懸念か

ロジャーズ氏はロシアへの投資拡大に意欲を示す一方、金価格や中国については懸念を抱いているようだ。

ドル高や金利上昇は金にとってマイナス要因となるが、トランプ氏の政策はドル高や金利上昇を招きやすい。実際、トランプ氏が当選してからアメリカの長期金利は1%も上昇したのだ。

一方、ロジャーズ氏がこれまで注目していた中国についてもトランプ氏が中国からの輸入品には高い関税を課すと発言していることなどから懸念を抱いているようである。貿易戦争が起きれば中国経済にとってもアメリカ経済にとっても良いことはないと考えているようだ。

ロジャーズ氏の投資アイデアは一考に値するかも?

ロジャーズ氏はトランプ大統領の誕生が今までの世界政治や経済動向を大きく変えると考えているようであり、今まで冴えなかったロシアに注目しているようである。

日本人にとっては近いようで遠い存在のロシアであるが、ロジャーズ氏の投資アイデアは一考に値するかもしれない。(アナリスト 樟葉空)

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