イトマン事件,住友銀行秘史,書籍
(画像=講談社、國重惇史著)

バブル時代の実話をリアルに書きつづった『住友銀行秘史』(講談社)という本が発売後1週間で10万部を突破したという。著者は当事住友銀行の幹部行員だった國重惇史氏で、この本に描かれているのは、戦後最大級の経済事件と言われた「イトマン事件」である。

詳細な記録と自らの記憶を基に実名を公開してイトマン事件の内幕が克明に描かれている。住友銀行(現三井住友銀行)の不正を内部告発した國重惇史氏が、「墓場まで持っていこう」と考えていた事実を明かした著書である(文中敬称略)。

キッカケは大蔵省銀行局長宛の告発文

中堅の繊維商社だったイトマンとメインバンクである住友銀行、そして裏社会が絡み合ったバブル時代を象徴する前代未聞の事件だった。

この事件が発覚したキッカケは、大蔵省の土田正顕銀行局長あてに送られた告発文だった。その内容は、「イトマンが抱える不動産案件の多くが固定化し、すでに金繰りが急速に悪化しており、このままいけばイトマンの経営のみならず、メインバンクである住友銀行への影響も避けられない」というものだった。

差出人は、「イトマン従業員一同」とあったが、実はこの告発文の送り主は國重惇史氏だったことを本人が著書で明かしている。

この事件の主な登場人物は、住友銀行の天皇と称されていた元頭取で会長の磯田一郎、住友銀行からイトマンの社長に迎え入れられた同行常務の河村良彦、そして裏社会の仕掛け人である伊藤寿永光と許永中である。

表向きの肩書きは経営コンサルタント

当事、繊維系の中堅商社だったイトマンは繊維不況で業績が悪化しており、メインバンクの住友銀行から常務の河村良彦を社長として迎えた。

繊維だけでは業績回復は難しいと考えた河村は、スイミングスクールや玩具の自販機事業、居酒屋のフランチャイズなど多角的な経営に乗り出した。しかし、失敗する事業も多く、川村は起死回生の一手として不動産事業の拡大に舵を切った。

イトマンが不動産事業に力を入れているという情報を嗅ぎつけ、急速に磯田と河村に接近してきたのが伊藤寿永光である。伊藤の表向きの肩書は経営コンサルタントだったが、実情は地上げや株の仕手戦を生業としていた裏社会の人間だった。

伊藤は言葉巧みに河村に取り入って、イトマンの不動産事業における責任者になった。当時の伊藤は雅叙園観光の仕手戦に失敗して資金繰りに窮しており、イトマンを介して住友銀行から多額の融資を受けて、その多くを焦げ付きの穴埋めに流用したのである。

伊藤はこの頃、雅叙園観光の債権者で大物政治家や暴力団組長と関係のある許永中を河村に引き合わせている。伊藤と許は見せかけだけのゴルフ場開発や計画性のない地上げにイトマンの資金を投入させ、自身の関連会社を経由して巨額の利益を得ていた。

住友銀行の磯田会長は腹心である河村を擁護し、イトマン事件が表沙汰にならないように画策していた。その一方で改革派の松下武義常務を中心に行内の膿を出そうという動きがあり、それが派閥闘争と絡んで事態をより複雑にしていった。

91年元日に朝日新聞がスクープ

1995年5月の日本経済新聞の報道によると、この頃のイトマンの不動産投資に関する借り入れが1兆2000億円にまで膨れ上がっている。そしてメインバンクの住友銀行は、イトマンへの融資で約5000億円の損失を出すに至ったのである。

許は河村に資金繰りを安定させるために効果があると美術品や貴金属への投資を持ちかけ、自分が所有する美術品を総額676億円で買い取らせた。これらの美術品には偽造された鑑定評価書が付けられており、市価の2~3倍の値段が付けられていたのである。

1991年元日に朝日新聞が絵画取引の不正疑惑をスクープし、同年7月に大阪地検特捜部が伊藤、許、河村を含む6人を特別背任などの容疑で逮捕した。2005年10月に最高裁が上告棄却を決定し、伊藤、許、河村の実刑が確定した。

刑事事件としては解決した形だが、伊藤や許に流れた資金が何処へいったかは謎のまである。裏社会へ流れていたとの見方が有力だが、その実態は未だ解明されていない。
イトマンという商社が得体のしれない裏社会の人間に骨の随までしゃぶりつくされ、都銀の雄である住友銀行までもが翻弄されて莫大な損失を出した事件である。事件後、イトマンは倒産という形ではなく、住友金属の商社部門である住金物産に吸収された。

はじめに良い思いをさせて引きずり込み、弱みを握った後に懐柔してとことん利用する。これは裏社会の常套手段だが、イトマン事件は正にそれを絵に描いたような構図である。エリートが故の保身が仇となり、いとも簡単に裏社会の餌食になった。

裏社会の人間とメガバンクのエリート行員という組み合わせは、一見不釣り合いに見える。しかし、地上げは銀行からの融資が裏社会に流れて行われていた。銀行はバブル期の不動産投資に積極的で、今では考えられないほど融資基準が甘かったのである。

これは住友銀行に限ったことではなかったが、住友銀行の天皇と称された磯田と、その腹心である河村による絶対的なワンマン体制が保身を優先させる行員を黙らせ、不正な資金の流れを容易にさせてしまったといえる。(ZUU online 編集部)

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