はじめに
2017年が始まりました。2016年の株式市場は大荒れでしたが、「申酉(さるとり)騒ぐ」の相場格言どおりに、酉年の今年も荒れる相場になるのでしょうか。株式市場関係者の新年の株価予想に耳を傾けると、「業績拡大で株価も上昇」という声が多いようです。しかし、ここ数年を振り返ってみると、年初に株式市場で堅調な展開が予想されていても、実際に蓋を開けてみると年初の想定どおりにいかない年も多くありました。
そこで本稿では、年初の想定通りにいく年がなぜ少ないのかをPER(Price Earnings Ratio:株価収益率)や企業業績から考えていきたいと思います。
業績が正確に見通せれば株価はある程度、予想可能
PERは足元の株価が割安または割高であるかを考える上でよく用いられますが、株価を予想する際にも便利な指標です。そもそもPERは株価をEPS(Earnings Per Share:1株当り利益)で割った指標です。下式のようにPERとEPSが分かれば、株価を逆算することができます。
ここで、PERは一定の水準の間で推移する傾向があります。実際にアベノミクスが始まった2013年以降のPERの推移を見ると、概ね12倍から15倍に収まっていたことがわかります【図表1】。
この4年で15倍を超えたのは2013年4、5月と2015年3~8月、そして足元の2016年12月のみです。過去2回ともバーナンキ・ショック、チャイナ・ショックを受けて株価が急落し、PERは再び15倍以下に低下しました。また、12倍を大きく下回ったのは2016年7月の英国のEU離脱が決定し、市場が混乱したときです。こちらも混乱が収まると株価が反発し、12倍を超える水準まで回復しました。
ここ4年間のPERの推移を踏まえると、2017年も投資家が過度に楽観的もしくは悲観的にならない限り、PERは12倍から15倍の間で動くことが想定されます。そのことから、もし新年度の業績を正確に見通すことが出来たならば、株価が動く範囲をある程度絞り込めます。TOPIXのEPSが105ポイントほど期待できるのであれば、TOPIXは1,260~1,575ポイントの間で推移する可能性が高いといえるでしょう。
新年度の業績見通しは難しい?
そのため、株価を予想するにはPERの変動よりもEPSの動向をつかむこと、つまり新年度の業績が重要になると筆者は考えています。特に、前章で見てきたように昨年11月以降の株価上昇に伴いPERは切り上がってきており、高水準にあります。足元、PERの水準がさらに大きく切り上がることは期待しにくい状況です。今後、株価が上昇するかは企業業績にかかっているといえます。
しかし、年初に新年度の企業業績を正確に予想するのはきわめて困難で、証券会社などから発表される新年度の業績見通しは例年、楽観的な傾向があります。実際に証券会社などの予想を集計しているI/B/E/S予想と実績の乖離具合を見てみましょう【図表2】。
TOPIXのEPSの新年度の予想と実績を比較すると、1989年度以降の28年間で予想より上方に着地した年は1989、2005、2013年度の3年だけでした【右:青棒】。予想より下方に着地した年度の中で、予想から実績の乖離率が▲10%以内で収まった年度も5年でした【右:黄棒】。残りの年度は予想から大きく乖離、もしくは赤字に転落していました【右:赤棒、白抜きは赤転した年度】。
つまり過去3分の2以上の年が、年初に想定されていたよりも実際にはだいぶ低業績であったことが分かります。業績見通しが甘いと、株価の予想範囲もその分だけ高くなってしまいます。そのため、年初の株価予想が強気になっていたと解釈することができます。
では、なぜ年初の業績予想が楽観的だったのでしょうか。年初の予想は企業から出てくる情報が少なく、市場関係者の裁量が大きくなるため、予想が希望的観測になりやすくなると筆者は考えています。証券会社は市場が活況になることを心の中で願っており、年初の業績予想はポジティブな予想になりやすかったのではないでしょうか。ちなみに、過去一度も新年度の減益を予想した年はなく、常に業績拡大が市場関係者の間で予想されていたことからもそのことが伺えます。
2017年度は、足元のEPS予想が106ポイントと二桁増益を市場関係者は見込んでいます。しかし過去の傾向を踏まえると、市場予想は実際に企業が達成するにはハードルが高いことも考えられ、やや割り引いて見たほうが無難だといえるのではないでしょうか。ちなみに2016年度は、一年前は110ポイントを超える水準が予想されていましたが、足元の予想は90ポイント台と大きく下方修正されました。