中国などから日本を訪れる外国人観光客のいわゆる「爆買い」が失速している。2016年の訪日外国人観光客消費総額は過去最高を記録する見通しだが、1人当たりの消費額は4年ぶりに前年を割り込んだ。
百貨店の全国売上高が36年ぶりに6兆円を下回ったほか、関西、伊丹の両空港を運営する関西エアポートが大阪難波の千日前に計画していた免税店は、急きょ中止となった。1~9月の経常利益が前年同期比98.8%減に陥った免税店チェーンもあり、小売業界に深刻な波紋が広がっている。
1人当たりの消費額が11.5%減少
観光庁の2016年訪日外国人消費動向調査によると、推計消費総額は対前年比7.8%増の3兆7476億円。訪日外国人観光客が2403万人に達し、過去最高となったこともあり、総額も調査開始以来の最高を記録した。
だが伸び率は前年の71.5%から大幅に縮小している。1人当たりの平均消費額は15万5896円。2014年の15万1374円を上回ったものの、2015年の17万6168円に比べ、11.5%の減少となった。
2015年は全消費額のうち、41.8%を買い物が占めていたが、2016年は38.1%に低下した。逆に、宿泊費や飲食費、交通費は増えており、訪日外国人観光客の目的が買い物から観光に変わってきたとみられる。
国と地域別で最も多く消費したのは中国人観光客で、総額1兆4754億円と外国人消費額全体の39.4%を占めた。前年比27.6%増の637万人が日本を訪れ、国、地域別では2年連続の最多。訪日外国人観光客全体の26.5%を占めている。
しかし、1人当たりの消費額は前年度比18.4%減の23万1504円。減少幅はすべての国と地域の中で最大で、爆買いを支えてきた中国人観光客の消費動向の変化がはっきりとうかがえる。
観光庁が2016年11月に訪日中国人観光客406人に買い物控えの理由を聞いたところ、44.6%は中国政府が2016年4月から始めた携行品輸入に関する関税引き上げ、22.4%は海外向けにウェブサイトを開設して商品を販売する越境ECの存在を挙げた。観光庁は関税引き上げと越境ECにより、日本での買い物総額が2000億円減ったとみている。
観光庁観光戦略課調査室は「2015年の流行語にもなった中国人の爆買いは落ち着きを見せ、本来の消費に戻ったのではないか」と分析している。
百貨店の売り上げもついに6兆円割れ
中国人の爆買いが失速した状況は、百貨店の売り上げからもうかがえる。日本百貨店協会によると、2016年の全国百貨店の売上高は前年比2.9%減の5兆9780億円にとどまった。売上高が6兆円の大台を下回ったのは1980年以来だ。
全国の主要10都市すべてで売り上げが減っており、特に大阪地区と仙台地区が3.7%減と減少幅が目立った。商品別では家具の7.8%減、婦人服の6.3%減、美術・宝飾・貴金属の5.8%減の落ち込みが大きい。
地方では人口減少や専門店との競合などが影響しているとみられるが、首都圏や京阪神では訪日外国人観光客1人当たりの購入額が減少した影響も少なくない。
百貨店の免税売上高は前年比5%減の1843億円。時計や宝飾品という高単価の嗜好品、家電製品、高級ブランド品などから、化粧品、雑貨など日用品を購入する人が増え、客1人当たりの販売額が下がっている。
特に中国人観光客はリピーターが増えている。2度目以降の来日となると、買い物動向も変わってくる。日本百貨店協会は「外国人観光客の来店者が減っているわけではなく、普通の状況に戻っただけともいえるが、買い物動向の変化は大きい」とみている。
関西エアポートは難波への免税店出店を断念
爆買い失速の影響で小売り各社は経営戦略の練り直しを迫られている。関西エアポートは家電大手のビックカメラ〈3048〉や韓国ロッテと連携し、大阪難波のビックカメラなんば店に免税店を出す計画を2016年2月に発表した。
関西空港内にある免税店が混雑してきたため、需要を取りこぼさないよう繁華街への出店を計画したわけだ。開業時期は2017年春で、初年度130億円の売り上げを目標としていたが、爆買い失速を受けて計画を取りやめた。関西エアポートは「訪日外国人の買い物動向変化などを総合的に判断した」と説明している。
訪日外国人向けの店づくりをしてきた免税店大手のラオックス〈8202〉は2016年1~9月期の連結経常利益が9200万円にとどまり、前年同期比98.8%減に落ち込んだ。売上高も494億円で前年同期比31.9%減となっている。
客1人当たりの購入単価はピーク時の2015年4月に4万円近くまで達したが、2016年2月の春節以降の落ち込みが激しく、9月は2万円を下回った。爆買いを前提とした中期経営計画も見直しを迫られ、北海道の釧路空港店、旭川駅前通り店など地方の不採算店を相次いで閉鎖している。
政府は2020年までに訪日外国人観光客を年間4000万人に増やし、1人当たりの消費額も20万円に引き上げて消費総額を年8兆円にする目標を掲げている。しかし、現状のままでは目標達成が難しくなりそうだ。
高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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