マンションの空き部屋などを利用した民泊をめぐるトラブルが相次いでいるのを受け、京都市は2017年度から担当の衛生業務部門を再編し、監視、指導体制を強化する。11区役所に分散配置していた職員を新たに設ける拠点に集約し、機動的に対応して違法民泊の排除をさらに推進するのが狙い。
市内は外国人観光客の増加で宿泊施設不足が深刻さを増しているが、市は特区民泊を導入せず、ホテルや簡易宿所の増設で対応する方針を打ち出している。今回の対応は政府が民泊推進へ舵を切る中、さらに強硬な姿勢を示したわけで、議論を呼びそうだ。
衛生業務部門の担当職員を拠点に集約
市医務衛生課によると、新しい拠点は中京区御池通に置かれ、保健福祉局の直轄部署とする。11区役所に配置していた約120人の衛生業務担当職員を集約し、従来の行政区に関係なく広域的な対応を進める。
部署や担当の縦割りも排し、機動的に人員を投入する計画で、優先事項については数十人規模の職員を一気に動員することも視野に入れている。
市中心部で急増する民泊の監視、指導の強化を念頭に置いているほか、スーパーや宿泊施設への検査指導や感染症、食中毒対策など、これまで区役所が担ってきた衛生、医療業務も受け持つ。
各区役所には職員がいる窓口を残し、簡単な許認可申請など市民に身近な業務を引き続き受け持つ。3つの支所にも新たに区役所と同様の窓口を設置する方針だ。
民泊増加で周辺住民とのトラブルも続出
市内はここ数年、外国人観光客が急増し、宿泊施設不足が深刻化している。市と京都文化交流コンベンションビューローの調査によると、2015年の客室稼働率はホテルが88.9%、旅館が70.1%。全国トップクラスの稼働率となり、予約が取りにくい状況になっている。
このうち、ホテルは外国人観光客の宿泊客数が前年比35.1%の大幅増。訪日客の客室利用割合は前年比6.2ポイント増の35.1%で、3室のうち1室を外国人が利用した計算になる。旅館の稼働率も全国平均の37.8%を大きく上回った。
京都文化交流コンベンションビューローは「格安航空会社(LCC)の路線拡大や円安が追い風になった」と分析している。京都で日本文化を堪能しようとする外国人は多く、当分の間この勢いが続きそうな状況だ。
市は宿泊施設拡充・誘致方針を打ち出し、本格的にホテルや旅館の誘致を進めている。市内はシティホテルやビジネスホテルの建設ラッシュが続いているうえ、町家を改造した簡易宿所の数も急増している。
ハイアットリージェンシー京都やザ・リッツ・カールトン京都など外資系ホテルの進出も相次いだ。ホテル用地を探す業者の動きも活発で、市観光MICE推進室は「まだまだホテルの進出は続く」とみている。
それでも宿泊施設不足を解消できず、市外に宿を確保して市内観光に来る訪日外国人観光客が後を絶たない。こうした外国人観光客を狙い、市内には無許可の違法民泊施設が数多く営業するようになった。
民泊のデータ解析を手がけるメトロエンジン(東京)のまとめでは、2016年12月で4369の民泊施設が市内で稼働している。行政区別でみると、市中心部にあり、清水寺や東本願寺、二条城など観光名所を多く抱える下京区や中京区、東山区などに集中している。
しかし、違法民泊の増加に伴い、市中心部ではトラブルが相次いでいる。民泊客が夜中に大騒ぎしたり、ごみを不法投棄したりするためで、施設周辺の住民から上がる不満の声は少なくない。
7カ月間で200施設以上が営業を中止
このため、市は2016年12月から宿泊業者を対象とした新たな指導要綱の運用を始めた。ホテル、旅館、簡易宿所などすべての旅館業施設が対象で、開業前の近隣への周知や客による迷惑行為防止の徹底を求め、必要に応じて立ち入り調査するという内容だ。
違法民泊に対しては、疑いがある施設に連絡を求める文書を張り出し、指導に従わないなら京都府警に告発するとしている。
同時に、違法業者の現地調査と指導の徹底にも乗り出している。2016年4月から10月末までの間、市民から1303件の通報を受け、延べ1558回の現地調査を実施した。
このうち、390施設は民泊サイトに業者名が公開されていないことから、運営者を特定できず、必要な指導ができなかったが、13施設に旅館業法上の許可を取得させ、212施設の営業を中止させている。
政府は一定の要件を満たせば自治体への届け出だけで民泊営業を可能にする民泊新法案を3月にも国会へ提出する方針。制限は残るものの、民泊推進へ舵を切りつつあるわけで、市の対応を厳しすぎると批判する声もある。
市内で営業する業者は「民泊業者がすべてでたらめなわけではない。市は杓子定規にならずに、優良業者が営業できるようもう少し配慮してほしい」と訴えている。
これに対し、市医務衛生課は「トラブルが続出している現状を考えると、監視、指導の強化に踏み切らざるを得ない。運営者名を公開しない業者や民泊サイトの姿勢にも疑問を感じる」と反論している。
高田泰
政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。
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