追加利上げ方向に傾く米国を後目に、低金利から脱出する気配を感じさせない欧州。しかし不安定なインフレやEU圏に漂う政治的不透明性などを理由に、量的緩和政策の継続と脱出を図る方向転換について、内部で意見が割れ始めたようだ。

ECB(欧州中央銀行)が低金利の必要性を強調する一方で、ヴォルフガング・ショイブレ独財務大臣などからは方向転換を提案する声が聞かれる。

欧州に広がる不安定性を理由にECBは低金利支持

3月9日にフランクフルトで開催されたEU金融政策決定会合で、ECBは今後も積極的な量的緩和政策を維持していく意向を明らかにした。

昨年世界をゆるがした米政権交代、英EU離脱に加え、フランスおよびオランダの選挙戦も目前に迫っている。欧州圏に不安材料があふれているうちは、方向転換がリスクになりかねないとの見解だ。

2015年3月から開始した国債買い入れも少なくとも年内は継続。買い入れ額は月額600億ユーロ(約7兆3616億円)から450億ユーロ(約5兆5212億円)に縮小される予定だが、インフレが2%で安定するまでは打ちきるつもりがないという。

その後も利上げを実施するにはかなりの時間を要するとし、必要に応じて追加利下げも検討していることが、CNBCなどに報じられている。

ショイブレ独財務大臣「よいタイミングで量的緩和政策から脱出を図りたい」

しかし同日、ベルリンの銀行イベントに参加したショイブレ独財務大臣は、「よいタイミングで量的緩和政策から脱出を図りたい」と発言。ECBの意向と真っ向から対立する、独銀行協会やIFO経済研究所の要請を支持する姿勢を示した。

イェンス・ヴァイトマン独中央銀行総裁やイヴ・メルシュECB専務理事も、脱出については沈黙を守っているものの、追加利下げの可能性はきっぱりと否定している。

低金利脱出の提案が飛びだした背景には、内需拡大によるEU圏の景気回復がある。個人消費とともに固定投資が増加し、サービス産業や製造産業も好調だ。失業率も2009年以前の水準にまでさがっている。

特にドイツでは昨年10月にインフレが2年ぶりの高水準を記録。9月以降は10年債利回りが大幅に上昇しており、GDP成長率も加速している。

これに対しては1月、フランソワ・ビルロワドガロー仏中央銀行総裁は「EUのインフレ2%超えはあくまで一過性のもの」とし、緩和縮小や出口戦略が視野にはいる段階ではないことを断言していた。

エコノミスト間では今年下旬に政策に微調整が加えられるか、来年に資産買い入れを縮小させるか、どちらかの路線に傾くとの見方が強い。

EUにとって次の難関は仏大統領選 「Frexit」が現実となるか?

EUにとって目下の最大の懸念は、4月と5月に予定されている仏大統領選だろう。世論では反EU派として知られる国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が、決選投票に進む公算が高まっている。

ルペン党首は「Frexit(仏EU離脱)」を問う国民投票の実施を公約に掲げているが、仮にルペン党首が当選したとしても越えるべき障害は英国よりもはるかに多いといわれている。仏ではEU加盟国であることが憲法第88条1項に定められており、離脱投票を行うには憲法改正という大きな壁を越えることが必須となる。

しかしこれには抜け道が用意されているとの指摘もあり、第11条を用いて議会承認をうけずに国民投票を実施する手段が残されている。Brexitに続くFrexitがまさかの現実となれば、EU経済にさらなる打撃を与えることは間違いない。

また昨年12月にはイタリアで憲法改革を問う国民投票が実施され、マッテオ・レンツィ首相が辞任。投資家間でくすぶる欧州圏の銀行への不信感も、不穏な空気をかもしだしている。

様々な不安定要素を考慮すると、やはりECBの「利上げは時期尚早」との判断が正しいといわざるを得ないのだろうか。マリオ・ドラギECB総裁は「EU各国の状況に目を向けるのではなく、EUというひとつの共同体として判断する」とコメントしている。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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