「欧米で拡大するポピュリズムの真偽を問う」と形容されたオランダ下院選挙。結果はマルク・ルッテ首相率いる自由民主国民党(VVD)が第1党を維持。EU離脱や反移民派であるゲルト・ウィルダース党首の自由党(PVV)は第2党にとどまった。
選挙運動中から一貫して、真の焦点はナショナリズムとグローバリズムの対決にあったという印象を強く感じた。
「誤ったかたちのポピュリズムを拒絶」ルッテ首相
「ポピュリズム・愛国者の勃興」の渦中にある欧米で、今回のオランダ下院選挙が異例なまでに高い関心を集めたのは当然の流れだろう。反イスラムや反EUをスローガンに掲げたPVVの勝利は、グローバリズムの終焉にまた一歩近づくことを意味していた。
投票率は過去30年間で最高の80%。世論では投票開始直前までPVVの「まさか」の勝利も予想されていた。英米で相次いだ歴史的「まさか」がオランダでも起こるか否か、世界中が固唾を飲んで見守っていた。
中道右派のルッテ首相が3期連続で第1党を維持した結果だけ見ると、オランダの国民は最終的に「改革」ではなく「共存」の道を選んだといえる。選挙後の反応は、ルッテ首相の勝利自体よりも、オランダが「過激なポピュリズムや反移民を支持する道を選ばなかった」という事実を誇る、あるいは称えるコメントが目立つ。
ルッテ首相は「今夜、我々は誤ったかたちのポピュリズムを拒絶した」という言葉とともに、自らの勝利に祝杯をあげた。グリーン・レフト党のジェシー・クレイバー党首は、投票結果を「オランダから反移民を唱えるEU離脱派に宛てたメッセージ」と形容した。
勢力を拡大するPVV 終わらないポピュリズム?
開票後、それまでウィルダース党首の勝利を半ば確信していた大衆までもが、「極右政党の惨敗」が当然の結果であるかのように歓迎した。その反面、今回の選挙結果だけで「ポピュリズムの拡大が阻止された」と安堵の胸をなぜおろすのは、時期尚早との警戒色も濃い。
アイルランドのジャーナリスト、ナオミ・オレリー氏やアムステルダム大学政治学部のサラ・ラング教授は、選挙結果を過度に額面どおりに受けとめないよう警告を発している。ウィルダース党首の移民排斥主義が、自由民主国民党 (VVD)のマルク・ルッテ党首などに多大な影響を与えたことは明らかで、「オランダの政治的展望に新風を吹きこんだ事実は否定できい」としている。
議席数だけを見ても、PVVが着実に勢いを拡大しているのがよくわかる。今回はVVDが150議席中最多の33議席を獲得しPVVは20議席にとどまったが、2012年の結果と比較するとVVDは8議席失ったのに対し、PVVは5議席増やしている。
ウィルダース党首は「これで終わりではない。愛国者の革命は続く」と、今後も反EU、反移民、反イスラムの活動を継続していく意向を示した。
欧州の運命を決定づける大型選挙が目白押し
欧州におけるナショナリズムとグローバリズムの対決は火蓋をきったばかりだ。「2017年は選挙の年」といわれる欧州では、4月から5月にかけて実施される仏大統領選、6月の仏国会議員選挙に続き、8月から10月に独連邦議会選挙、来年5月には伊総選挙が予定されている。いずれの国でも極右政党の跳躍が目立つ。
仏の第1回投票では極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首が最多票を獲得するという見方が強いが、決選投票では中道系独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相が最有力候補として浮上している。しかしこれが希望的観測ではないという保証は見当たらない。
EUの先導者として知られるアンゲラ・メルケル首相は4期目となる下院選挙勝利を目指すが、今回の選挙が「東西独統一以来、最も難しい選挙になる」と自ら認めている。寛容な移民受けいれも一部では「後先を考えない大量流入を招いた」と反感を買い、世論は真っ二つに割れている状況だ。反難民派の新興右派政党、AfDに票が流れれば、中道左派の独社会民主党や左派の左翼党などに政権を奪取されかねない。
マッテオ・レンツィ前首相の辞任から3カ月が経過したイタリアにも、ポピュリズムの潮流は押しよせている。改憲の是非を問う国民投票でのレンツィ前首相の敗北は、反EUを唱える新興野党、五つ星運動の存在感を世界中に知らしめた。
欧州における選挙戦は最早一国の先導者を選ぶだけではなく、「人権問題などを含めた一国のあり方を問う」機会と化しているのだろう。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)
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